現在、一般社団法人農民連食品分析センターでは、尿に含まれるネオニコチノイド系農薬を検出する試験法の開発を進めています。試験法開発の過程でおこなった分析センタースタッフとその家族の尿7検体について試験した結果がまとまりましたので、ショートレポートとして紹介します。
採取された尿を分析試料として、試験に不要な成分をミニカラムなどを用いて精製処理をおこなった後、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析計を用いた試験法で農薬成分の検出をしました。定性性と定量性を向上するため放射性同位体標識付標準品を使用した試験法となっています。(詳細をクリックで続きを表示)
日本農薬工業会の作用機構分類にあるネオニコチノイド系農薬7成分と、近年、ネオニコチノイド系農薬に類似した用途や特徴をもつとされる農薬7成分を対象としています。内訳は以下の通りです。
ネオニコチノイド系殺虫剤7剤 | ジアミド系殺虫剤1剤 |
アセタミプリド | クロラントラニリプロール |
クロチアニジン | フェニルピラゾール系殺虫剤2剤 |
ジノテフラン | エチプロール |
イミダクロプリド | フィプロニル |
ニテンピラム | フロニカミド系殺虫剤1剤 |
チアクロプリド | フロニカミド |
チアメトキサム | ブテノライド系殺虫剤1剤 |
スルホキシイミン系殺虫剤(ネオニコ類似)1剤 | フルピラジフロン |
スルホキサフロル | |
メソイオン系殺虫剤(ネオニコ類似)1剤 | |
トリフルメゾピリム |
グラフに示すように、スタッフとその家族全員からネオニコチノイド系農薬が検出されていることがわかります。これは食事や生活環境に由来する農薬が検出されたと考えられます。食べる農産物の栽培方法には、ある程度、選択したり、こだわりを持っているスタッフもいますが、それでも検出されるようです。
国内外の研究報告などを見ても、ネオニコチノイド系農薬が尿から検出される頻度は、高い状況にあるようです。特に、今回のデータでは、ネオニコチノイド系農薬のジノテフランの検出頻度が高いことがわかります。このデータ以外の検査でも、ジノテフランは多くの方の尿から検出されることがわかっています。ジノテフランは、私たちの調査や東京都健康安全研究センターの年報からも推測されるように、食品からの検出頻度が高い農薬です。日本の農産物生産に使用されるジノテフランを主成分にする農薬製品は、かなり多く、また登録作物が豊富であることから、使用しやすい位置づけにあることが背景と考えられます。
スタッフHとスタッフH妻は検出される農薬の傾向が類似しています。共通する食べものを摂取していることが、尿に検出される農薬の種類に関係していると考えられます。
尿から農薬が検出されることと、健康影響の関係については、近年様々な論文が発表はされていますが、まだ因果関係がよくわかっていない段階と考えられます。体内に入っても低用量であったり、速やかに排出されるなどであれば、影響は大きくないとされています。このようにネオニコチノイド系農薬は、旧来の農薬に比べ低毒性であるとして定評がある位置づけにありますが、一方で、血液脳関門や胎盤などを容易に通過することが報告されており、より詳細な研究が求められている一面があります。
尿中のネオニコチノイド系農薬を検出する試験法の開発を進めてきました。間もなく一般の方を対象にした検査受け入れができるステージに到達しますが、尿は、体質や採尿タイミングによって成分などが異なることから、開発の最終ステップとして、実際に多数のサンプルを対象に試験系のチェック、オペレーションフローの整理などをおこない、試験システムの整備や経験値を積み上げたいと考えています。2021年9月10日から24日の期間、このプレテスト調査へのご協力者を募集します。詳細は、リンク先を参照下さい。
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