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はじめに

 私たちの主食、お米。お米からはどんな農薬が検出されるのでしょう。農民連食品分析センターでは、2017年2月から2020年3月まで、市販の玄米297検体について131成分の農薬残留調査をおこなってきました。その結果、農薬の検出率は30%ほどでしたが、検出される農薬の60%以上がネオニコチノイド系農薬であることが見えてきました。

 ネオニコチノイド系農薬(以下、ネオニコ系農薬)は、日本はもちろん、世界中で広く使用されている殺虫剤です。農業用だけでなく、家庭用としても広く普及しています。その特徴は、「植物に浸透移行する、効果が長く持続、低濃度でも殺虫効果が高い、歴史の長い有機リン系農薬に比べ人に低毒性である」、などとされ、次世代の新農薬として1990年代から利用されるようになりました。

 農薬に求められる性能だけで見るならば、優れた能力を持つと評価されてきたネオニコ系農薬ですが、近年、生態系影響が指摘され、世界では、その使用にあたって禁止や制限などを決定したり、検討したりする動きの中におかれています。特に、2018年にはEU諸国で、ハチ類への影響を排除できない状況で使用されている、という結論によって、ネオニコ系農薬の代表成分であるクロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムについて、屋外使用の禁止が決定し、世界に衝撃が走りました。

 さらに最近では、ネオニコ系農薬が、胎盤を経由して胎児も届いていること、新生児の尿からネオニコ系農薬が検出されること(論文)、ラットなどで発達や行動に影響が認められる(論文)など、ヒトへも影響の可能性があることを指摘する論文が報告され、関心が集まっています。

 一方、日本は、ネオニコ系農薬について規制に取り組んだり、議論を進めている国々とは反対に、基準値の緩和や新規での使用登録が進められている状況にあります。新しい研究や知見などを踏まえれば、また、持続可能な食料生産の仕組みを作っていくためには、いまネオニコ系農薬について明らかになっている影響性や研究報告をもとに、その使用にあたって他国で見られるような議論がより行われるべきと考えます。

 特に、私たちの主食である水稲の生産現場では、カメムシの食害によって等級が低下することを防ぐ目的で全国的に使用されていることが知られています。今回の調査で、もっとも検出頻度が高く、検出の8割を占めていたジノテフランは、水稲のカメムシ防除に使われており、日本を代表するネオニコチノイド系農薬として位置づけられている農薬でもあります。使用の背景には、近年、生産者米価が低迷しているなか、等級低下は避けたいという米生産者の事情もあることが指摘されています。しかし、自然と繋がっている水田であり(論文)、摂食機会の多い私たちの主食であることからも、ネオニコ系農薬の使用については、新しい研究報告や他国での動きも取り入れつつ、より積極的な議論と再評価が進められる必要があるのではないでしょうか。

分析方法などについて

試験法について

結果

表1 市販玄米のネオニコチノイド系農薬残留調査(2017-2020)
総検査数 297検体  
  農薬が不検出だった玄米 189 検体 国産米187検体、外国産米1検体
  農薬が検出された玄米 109 検体 国産米107検体、外国産米2検体
表2 市販国産玄米の検出結果内訳(2017-2020)
総検査数 297検体
国産米 294検体
  農薬が不検出だった玄米 187 検体
農薬が検出された玄米 107 検体
  ネオニコ系農薬の検出数 104検体
  アセタミプリド
1 検体 痕跡 1 検体
イミダクロプリド 1 検体 痕跡 1 検体
クロチアニジン 17 検体 痕跡 13 検体
定量できたもの
4 検体

内訳
0.026 ppm
0.006 ppm
0.005 ppm
0.012 ppm

ジノテフラン 82 検体 痕跡 54 検体
定量できたもの
28検体

平均値
0.035 ppm
中央値
0.023 ppm
最小値
0.005 ppm
最大値
0.155 ppm

チアメトキサム 3 検体 痕跡 1 検体
チアクロプリド 0    
ニテンピラム 0    
ネオニコ系類似農薬の検出数 16 検体
  スルホキサフロル 2 検体 痕跡 1 検体
定量できたもの 1 検体

内訳
0.052 ppm
エチプロール 14 検体 痕跡 13 検体
定量できたもの
1 検体


内訳
0.152 ppm

その他の農薬 45検体
 

農薬名と検出数

その他の農薬の検出内容の詳細は表5に記載

45 検体 アゾキシストロビン
クミルロン
クロラントラニリプロール
テブコナゾール
テブフェノジド
フェリムゾン
フェンピロキシメート
フラメトピル
ペンシクロン
ボスカリド
メタラキシル
メトミノストロビン
4 検体
1 検体
1 検体
1 検体
1 検体
19 検体
1 検体
13 検体
1 検体
1 検体
1 検体
1 検体
外国産米 3検体
  農薬が不検出だった玄米 2検体
農薬が検出された玄米 1 検体
  ネオニコ系農薬の検出数 1 検体
  アセタミプリド 1 検体 痕跡 1 検体
ネオニコ類似農薬の検出数 0 検体
その他の農薬の検出数 0 検体

 

考察と補足

検出円グラフ
図1 検出農薬に占めるネオニコチノイド系農薬の割合

関連リンク

分析センター調査レポート:輸入ワインのネオニコチノイド系農薬など残留調査2018 1st

農林水産省:国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査の結果について

一社)アクト・ビヨンド・トラスト:ネオニコチノイド系農薬残留調査レポート(米・茶)2014

一財)岐阜県公衆衛生検査センター:岐阜県および地下水におけるネオニコチノイド系農薬の調査

Science:Neonicotinoids disrupt aquatic food webs and decrease fishery yields

産総研:研究成果:うなぎやワカサギの減少の一因として殺虫剤が浮上/島根県の宍道湖でネオニコチノイド使用開始と同時にウナギ漁獲量が激減(上記、Science誌の概要)

PLOS ONE:LC-ESI/MS/MS analysis of neonicotinoids in urine of very low birth weight infants at birth(北海道大学のグループによるネオニコが母体から胎児に移行することを確認した論文)

ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議:ミツバチ・生態系・人間 - (PDF)

コープ自然派事業連合:Youtube:米や野菜、果物を「ネオニコフリー」にすることから始めよう

有機農業ニュースクリップ:ネオニコチノイド農薬関連年表(1992~)

住友化学:EUのネオニコチノイド剤屋外使用制限採択に対する住友化学の見解

FOOCOM:欧州連合ネオニコチノイド系殺虫剤の使用全面禁止/1回の投票で決着したが混乱は続く

週刊新潮:「食」と「病」 実は「農薬大国」ニッポン(3/19, 3/26, 4/2. 4/9, 4/16, 4/23, 4/30, 5/7・14, 6/18号)*記事は読めません

農薬工業会:週刊新潮の掲載記事に関する農薬工業会の見解

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