輸入ワインのネオニコチノイド系農薬など残留農薬131成分調査2018 1st

世界中から届くワイン。2016年度の統計によれば、55カ国から輸入されています。様々な国の栽培の特徴を反映していると考えられるワインについて、ネオニコチノイド系農薬8剤を含む残留農薬131成分の一斉分析調査をおこなってみました。22製品について検査を行ったところ、18製品から殺菌剤や殺虫剤などの検出が認められ、このうち8製品からはネオニコチノイド系農薬が検出されました。アジア諸国からも検出されています。

はじめに

　2018年12月に公開をしました「輸入ワインのグリホサート残留調査2018 1st」では、園地の除草に使用されたと考えられるグリホサートが、さまざまな国のワインから検出されることを報告しました。

　そもそも前報のグリホサート残留調査は、ネオニコチノイド系農薬が世界のどのような国で使用されているか、その状況を探るために実施した調査の補足としておこなわれたものでした。おまけの調査のはずが、私たちの予想していなかったグリホサートの高い検出頻度であったことから、本来の目的であったネオニコチノイド系農薬の結果報告が後回しになってしまいました。半年以上が経過してしまいましたが、今回、この報告で、取りまとめた結果を公開しましたのでお読みください。

　世界におけるネオニコチノイド系農薬の使用や食品からの検出実態に触れる論文はいくつかあり、広い地域でネオニコチノイド系農薬が使用されて、食品に残留していることが報告されています。近年、話題として日本のメディアでも取り上げられたものでは、千葉工業大学やスイスのヌーシャテル大学等の研究があります。この二つの調査研究では、世界各地のハチミツからネオニコチノイド系農薬が検出されることを報告しています。特に後者のレポートでは、検査した蜂蜜試料の75%から検出が認められたとあります。

　多くの国々で、ネオニコチノイド系農薬が普及している実態を示す報告を見る中で、私たちも世界のネオニコチノイド系農薬の使用状況を調査しようと考えました。世界中から日本に届き、身の回りにあって入手しやすい食品はなにか、と考えた結果、たどり着いたのはワインでした。

　今回、22製品について、ネオニコチノイド系農薬8成分（イミダクロプリド、クロチアニジン、チアクロプリド、アセタミプリド、ニテンピラム、ジノテフラン、チアメトキサム、スルホキサフロル）を含む農薬131成分の残留検査をしました。マイナーな生産国のものを中心に行っていますが、今後、資金的な支援が得られれば、よりメジャーなヨーロッパ、アメリカ、南米、オーストラリアなど産地のワインについても調査をおこなっていく予定です。

分析方法などについて

赤ワイン試験中

サンプルの入手期間は、2018年5月から11月のかけて、オンライン通販、実店舗、協力者からの寄贈などにより入手しました。今回の対象は全て輸入ワインとしました。
入手できたのは、ワイン22製品で、赤ワイン21製品、白ワイン1製品となっています。
対象の原産国は14カ国で、アルジェリア、インド、ウクライナ、ウルグアイ、キプロス、スペイン、タイ、チュニジア、チリ、ベトナム、モルドバ、ルーマニア、ロシアが各1製品、フランスが8製品となっています。
22製品中、有機栽培ワインが4製品となっています。
高速液体クロマトグラフ質量分析計を利用した試験法で実施しました。本試験による農薬の定量下限値は、今回の調査の目的に十分な感度と考えられる0.001ppmとしました。
- LC/MS/MS131成分検査
  高速液体クロマトグラフ質量分析計：島津製作所製LCMS -8050　ESI(+/-)
  分析カラム：Kinetex Biphenyl, 2.1 mm i.d. × 100 mm, 2.6μm(Phenomenex製)
  データ処理：島津製作所製LCMS Solution / Insight
  定性・定量：MRM法

結果

　表1に示すように、 22製品中18製品で残留農薬の検出が認められました。このうち8製品からはネオニコチノイド系農薬が検出されています。表中、赤文字で示されているのがネオニコチノイド系農薬です。

　なお、「痕跡」は、定量下限値以下、検出限界以上で検出があったことを示します。わかりやすく説明をしますと、本分析法で、残留は確認できるけれども、濃度が決められるほどの濃度ではなかったという意味です。食品衛生法上は、不検出と同等と扱われます。

表1 輸入ワイン中の農薬残留状況調査2018 1st
No.	画像	サンプル名	産地	産年	製造元	分析結果(ppm)
1		赤ワインアスコニエクセプショナル・メルロー Asconi Exceptional Merlot	モルドバ	2012	ASCONI	イミダクロプリドイプロバリカルブボスカリドジメトモルフ	痕跡 0.001 0.001 0.002
2		赤ワインキュヴェ・ド・プレジデントルージュ Cuvee Du President Rouge	アルジェリア	2015	O.N.V.C(OFFICE NATIONAL DE COMMERCIALISATION DES PRODUITS VITI CINICOLES）	イプロバリカルブアゾキシストロビン	痕跡痕跡
3		赤ワインビノルージュ・ド・タマーニュ Rouge de Tamagne	ロシア	2016	Kuban Vino	ボスカリドシプロジニルフェノキシカルブアゾキシストロビンピラクロストロビングリホサート	0.008 0.002 痕跡痕跡痕跡 0.02
4		赤ワインシャトーモルナグルージュ Chateau MORNAG VIN ROUGE (MORNAG GRAND CRU)	チュニジア	2015	Les Vignerons de Carthage	イミダクロプリドチアクロプリドイプロバリカルブフェンエキサミドボスカリドグリホサート	0.006 痕跡 0.015 0.002 痕跡 0.05
5		赤ワインヴィ・ピノ La Vie PINOT NOIR	ルーマニア	2015	Sc Domeniile Sahateni Sri	イプロバリカルブフェンヘキサミドジメトモルフアゾキシストロビンスピロキサミングリホサート	0.005 0.006 0.005 痕跡痕跡 0.02
6		赤ワインサペラヴィ・タルダン CAIIEPABI Mater Tardan	ウクライナ	2014	SHABO LLC	イプロバリカルブフェンヘキサミドボスカリドジメトモルフアゾキシストロビン	痕跡 0.043 0.001 0.006 痕跡
7		赤ワインスラ・ヴィンヤーズサトリ ”悟” SULA MERLOT MALBEC Satori	インド	2017.11	Sula Vineyards Pvt. Ltd.	チアメトキサムイミダクロプリドイプロバリカルブジメトモルフアゾキシストロビンスピノサドグリホサート	痕跡 0.003 0.012 0.014 0.004 痕跡痕跡
8		赤ワイントラヴェルサタナ TRAVERSA TANNAT	ウルグアイ	2016	GRUPO TRAVERSA S.A.	イプロバリカルブメトキシフェノジドジメトモルフアゾキシストロビングリホサート	痕跡 0.014 痕跡痕跡 0.02
9		赤ワインダラッドワイン・レッド Vang Dalat	ベトナム	2015	Ladora Winery	チアメトキサムイミダクロプリドアセタミプリドカルボフランフェノブカルブジメトモルフメトキシフェノジドアゾキシストロビントリシクラゾールグリホサート	0.004 0.011 0.001 痕跡痕跡痕跡痕跡 0.002 痕跡痕跡
10		赤ワインオリンポスレッド・ドライ OLYMBUS DRY RED WINE	キプロス	記載なし	Olympus Wineries Ltd	チアベンダゾールジメトモルフグリホサート	0.001 痕跡痕跡
11		赤ワインモンスーンバレーレッド MONSOON VALLEY WINE	タイ	2015	Saim Winery Co.Ltd,	チアメトキサムイミダクロプリドカルバリルイプロバリカルブフェンエキサミドメトキシフェノジドボスカリドジメトモルフアゾキシストロビングリホサート	0.012 0.133 痕跡 0.011 0.001 痕跡痕跡 0.015 痕跡痕跡
12		赤ワイン（オーガニック） TERZO ROSSO TOSCANO	イタリア	2016	LaSelva s.a r.l.u	検出せず
13		赤ワイン FRONTERA Carbenet Sauvignon	チリ	2016	CONCHA Y TORO	イミダクロプリドフェンヘキサミドボスカリドテブフェノジドメトキシフェノジドアゾキシストロビン	0.002 0.001 0.002 痕跡痕跡痕跡
14		赤ワインル　メイン・カヴァノ2016年 Chateau Le Mayne-Cabanot A.O.C. Bordeaux	フランス	2016	VINS DE BORDEAUX	チアメトキサムイプロバリカルブフェンヘキサミドボスカリドシプロジニルジメトモルフグリホサート	痕跡痕跡 0.015 0.002 0.002 0.005 0.01
15		赤ワインセニャー　ドゥ　ラ　トゥール2015年 Seigneur De la Tour A.O.C. Bordeaux	フランス	2015	VINS DE BORDEAUX	ジメトモルフスピロキサミングリホサート	痕跡痕跡痕跡
16		赤ワインシャトー　レ　フェルモントー2015年 Chateau les Fermenteaux A.O.C. Bordeaux	フランス	2015	VINS DE BORDEAUX	チアメトキサムジメトモルフスピロキサミン	0.001 痕跡痕跡
17		赤ワインル　グラン　ユモー2014年 Le Grand Humeau A.O.C. Bordeaux	フランス	2014	VINS DE BORDEAUX	イプロバリカルブフェンヘキサミドジメトモルフグリホサート	0.002 0.001 痕跡 0.01
18		赤ワインシャトー　リオタン2014年 Chateau Liontin A.O.C. Bordeaux	フランス	2014	VINS DE BORDEAUX	イプロバリカルブフェンヘキサミドボスカリドジメトモルフグリホサート	痕跡 0.002 0.002 0.003 痕跡
19		赤ワインラ　ロッジュ2015年 La Loge A.O.C. Bordeaux	フランス	2015	VINS DE BORDEAUX	チアメトキサムイプロバリカルブフェンヘキサミドボスカリドシプロジニルジメトモルフグリホサート	0.001 痕跡 0.013 0.015 0.002 0.002 痕跡
20		白ワイン（オーガニック）レ・グランザブル　ヴァン・ド・フランス　ブラン Les Grands Arbres Van de France Blanc	フランス	2017	Badet Clement	検出せず
21		赤ワイン（オーガニック）レ・グランザブル　ヴァン・ド・フランス　ルージュ Les Grands Arbres Van de France Rouge	フランス	2016	Badet Clement	検出せず
22		赤ワイン（オーガニック）マルケス・デ・チベオーガニックレッド MARQUES DE CHIVE Organic TEMPRANILLO 2014	スペイン	2014	Vicente Gandia	検出せず

考察と補足

赤ワインの揺らぎ

22製品中18製品で残留農薬の検出が認められました。このうち8製品からネオニコチノイド系農薬が検出されています。
有機栽培ワインからは、今回検査対象にした農薬成分の検出は認められませんでした。
日本の食品衛生法のグリホサートの残留基準値にワインの基準は設けられていません。このため、まず一律基準の0.01ppmを当てはめてこの検出値を考えることになります。この場合、いくつかの検体では、超過に相当することになりますが、EUの基準値に関する情報に基づいて考えれば、ワインの加工係数は1.0~1.5とされており、ブドウの基準値＝ワインの基準値として読み替えることができると考えられます。この関係を元に、比較を行ってみるといずれも基準を超過するものではないと判断することができ、食品衛生法上、問題無く安全であると評価されるものです。

検出された農薬の多くは、殺菌剤となっています。ぶどうの生産において、病害対策用の多様な薬剤が使用されていることがうかがえる結果です。

表2 検出された農薬の種類について
成分名	種類	成分名	種類
アセタミプリド	殺虫剤（ネオニコ）	チアクロプリド	殺虫剤（ネオニコ）
アゾキシストロビン	殺菌剤	チアベンダゾール	殺菌剤・食品添加物
イプロバリカルブ	殺菌剤	チアメトキサム	殺虫剤（ネオニコ）
イミダクロプリド	殺虫剤（ネオニコ）	トリシクラゾール	殺菌剤
カルバリル	殺虫剤	ピラクロストロビン	殺菌剤
カルボフラン	殺虫剤	フェノキシカルブ	殺虫剤
グリホサート	除草剤	フェノブカルブ	殺虫剤
シプロジニル	殺菌剤	フェンエキサミド	殺菌剤
ジメトモルフ	殺菌剤	ボスカリド	殺菌剤
スピノサド	殺虫剤	メトキシフェノジド	殺虫剤
スピロキサミン	殺菌剤

モルドバ、チュニジア、インド、ベトナム、タイ、チリ、フランス産のワインからネオニコチノイド系農薬が検出されています。
フランス産ワイン3製品から、ネオニコチノイド系農薬のチアメトキサムが検出されています。フランスは、2018年9月からクロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム、チアクロプリド、アセタミプリドの5剤の使用禁止を実施していることが知られています。今回検出が認められたフランス産ワインの製造年は、2015年であることから、使用禁止になる前の製品であることがわかります。
ワインの場合、製造国と原材料の生産国が異なることはよくあることであり、ワインから検出される農薬が、すなわちそのワイン製造国で使用された農薬と判断することは難しいという背景があります（濃縮果汁を南米などから輸入し、これを醸造するなど）が、今回、調査をおこなったフランスワインは、A.O.C.Bordeaux認証が行われていることを考慮すれば、ボルドー地方産の葡萄を使用して製造されたことは保証されていると考えられますので、フランスで使用されたチアメトキサムを検出しているとみて良いと考えられます。
No.1 のモルドバ産ワインのアスコニエクセプショナル・メルローは、取り扱いをしている販売店の情報によれば、510haほどのブドウ園地を持ち、製品の全てが、自社のブドウ園地産のブドウを利用している、と紹介されていることから、検出されたイミダクロプリドは、モルドバで使用されたものと考えられます。
No.4のチュニジア産ワインのシャトーモルナグルージュは、取り扱いをしている販売店の情報によれば、フランスで行われているA.O.C制度に習った製造が行われているそうです。また、チュニジアの生産社協同組合UCCVが、国内6産地で生産された葡萄を使用している、と紹介されています。このことからも、検出されたイミダクロプリド、チアクロプリドは、チュニジアの生産地で使用されたものと考えられます。
No.7のインド産ワインのスラ・ヴィンヤーズ悟、No.9のベトナム産ワインのダラッドワイン・レッドおよびNo.11のタイ産ワインモンスーンバレーレッドは、使用しているブドウについてのはっきりとした記述がなく、検出が現地での散布によるものかは、わかりません。
No.13のチリ産ワインのフロンテラカベルネ・ソーヴィニヨンは、キリンホールディングスのブランドページによれば、自社産の葡萄を使用しているように紹介されています。ですので、検出されているイミダクロプリドは、現地チリ産の葡萄生産の過程で使用されたものであると考えられます。
これらの結果は、ワインにネオニコチノイド系農薬が多く含まれているということを示しているわけではありません。ネオニコチノイド系農薬は、様々な国で、さまざまな作物に広く使用されています。今後、公開をしていく予定ですが、私たちの調査でも、穀類や野菜類でも、検出されるものは数多くあることがわかっています。
2019年7月に獨協医科大学と北海道大学の研究チームによって、環境科学討論会で、発表された報告には、新生児の尿からネオニコチノイド系農薬とその代謝物が検出されることがまとめられています（報告1/論文1）。また、2019年7月にアメリカで発表された論文でも、非常に多くの人の尿から、食品由来と考えられるネオニコチノイド系農薬が検出されることが示されています。
フランス産ワインについては、フランスの消費者連合(UFC)が発行している「Que Choisir?」誌が継続して調査報告を行っているようです。2013年の同紙では、「フランスワインに飲料水基準の300倍の残留農薬」という内容の調査結果が公開されているようです。この記事の日本語版については、日本消費者連盟の「消費者リポート1544号、海外消費者情報vol.4」で読むことができます。この調査の続報として、2017年には、ボルドー地方では、4年間で農薬の使用量？検出量？が減ったという報告もされているようです。
国内のワインの残留農薬についてまとめた論文としては、「山梨県産ワインと果汁、及びぶどうにおける残留農薬実態調査（山梨衛環研年報, 第54号, 2010）」などが参考になります。
今後は、日本ワインのほか、よりメジャーな国々のワインも集め、調査を進めていく計画です。みなさんからのワインの提供と研究募金などの支援をお願いいたします。

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