毎年5月から8月にかけて、私どもの施設には、ミツバチが不自然に大量死している、大丈夫だろうか?といった相談が寄せられます。
ミツバチの大量死は、蜂群崩壊症候群(CCD)が知られています。その発生原因は、いまだ解明されていない部分が残っていますが、現在、最も有力視されているのが「農薬」による影響です。特に、広く普及している「ネオニコチノイド系農薬」が原因とする研究が多く報告されています。
日本でも、受粉用のハチが供給不足になった背景から、農林水産省が、ミツバチのこのような現象について、全国的調査をおこなっています。2013〜2016年にかけて行われたその調査の報告によれば、日本ではCCDの発生は認められていない、ミツバチの大量死は、おもに「ダニ類による被害」、「水稲のカメムシ防除などに使用されるネオニコチノイド系農薬ほかによる直接的暴露」、「餌となる蜜源、花粉源の減少」などが原因となっている可能性が高い、としています。
日本で観察される大量死がCCDであるかどうかについては、ここでは話題にしませんが、農薬による暴露が、ミツバチの死や蜂群の維持、行動に影響を与えているという調査、研究報告があることを踏まえれば、大量死について原因を広く整理する調査と、再発生防止の対策や調整が求められることが求められます。
先述の農林水産省の調査報告では、このような農薬の直接暴露を防ぐために、農家が散布する際にあたっては、養蜂家と散布時期など連絡を取り合い、連携して被害が出ないようにすることを薦めていますが、必ずしもそれがうまくいかず、直接暴露による被害なども起きていると考えられる事例の相談も私たちの施設には寄せられています。
実際、寄せられる相談の多くは、巣箱を置いている場所周辺で、水田や果樹などにネオニコチノイド系農薬に代表される農薬が散布される時期とハチの大量死の時期が重なっていることを指摘するものが多いことも特徴です。農林水産省の調査でも、被害の発生は、水稲のカメムシ防除と重なる時期に多いとまとめられています。
このショートレポートは、このような事例の相談について、寄せられた蜜蜂の死骸についてLC-MS/MS法による残留農薬検査を実施し、農薬影響の可能性を調べたデータの一部を公開したものです。 また、関連資料としてこれまでにおこなってきたはちみつの残留農薬調査結果の一部も公開しました。
表1に示すように、2試料のうち、1検体からネオニコチノイド系農薬の「クロチアニジン」が検出されました。他に、殺虫剤のノバルロン、除草剤のベンタゾンが検出されました。
No. | 商品名 | 検査年 | 産地 | 分析結果(ppm) | |
1 | ニホンミツバチの死骸 (2020年6月事案発生) |
2020 | - | ノバルロン |
痕跡 |
2 | ニホンミツバチの死骸 (2020年6月10日大量死発生) |
2020 | - | クロチアニジン ベンタゾン |
痕跡 痕跡 |
表2に示すように、 はちみつ11試料のうち、6製品から農薬の検出が認められました。検出されたのは9成分でした。
No. | 商品名 | 検査年 | 産地/生産者 | 分析結果(ppm) | |
1 | はちみつ | 2017 | - | アセタミプリド ジノテフラン |
痕跡 痕跡 |
2 | はちみつ | 2018 | - | アセタミプリド |
0.014 |
3 | はちみつ | 2018 | - | アセタミプリド |
痕跡 |
4 | はちみつ | 2018 | - | シプロジニル |
痕跡 痕跡 0.01 痕跡 |
5 | はちみつ | 2018 | 北海道 | 検出せず | |
6 | からすざんしょうのはちみつ | 2018 | 千葉 NPO法人 はぁもにぃ養蜂部 |
検出せず | |
7 | さとのはなのはちみつ | 2018 | 千葉 NPO法人 はぁもにぃ養蜂部 |
検出せず | |
8 | はちみつ | 2019 | 徳島 | アセタミプリド | 痕跡 |
9 | はちみつ | 2017 | - | アセタミプリド ジノテフラン |
痕跡 痕跡 |
10 | アカシアはちみつ | 2020 | 新潟 | 検出せず | |
11 | ニホンミツバチのはちみつ | 2020 | 神奈川 | 検出せず |
成分名 | 基準値(ppm) |
アセタミプリド |
0.2 |
ジノテフラン |
一律基準 |
クロチアニジン |
一律基準 |
チアメトキサム |
一律基準 |
フィプロニル |
一律基準 |
シプロジニル |
一律基準 |
テブフェノジド |
一律基準 |
フロニカミド |
一律基準 |
フルフェノクスロン |
一律基準 |
分析センター調査レポート:輸入ワインのネオニコチノイド系農薬など残留調査2018 1st
環境省:我が国における農薬がトンボ類及び野生ハナバチ類に与える影響について(PDF)
Science:A worldwide survey of neonicotinoids in honey(サイエンス誌ヌーシャテル大学の論文)
abt:養蜂場における長期野外実験でのジノテフランとクロチアニジンの蜂群への影響, 金沢大学理工研究域自然システム学科山田敏郎
日経新聞:蜂蜜やミツバチ、広がる農薬汚染 9都県で検出:千葉工業大学亀田准教授による蜂蜜の調査結果
ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議:ミツバチ・生態系・人間 - (PDF)
飼育されているミツバチが、農薬の影響と考えられる状況で大量死した場合などの検査に対応をしています。検査をご希望される場合は、以下の問い合わせ先から、ご相談ください。大量死などが発生したときの状況などを伺いながら、検査に必要な試料量、発送の手順などをご案内致します。ミツバチの検査方法については、特段指定がない場合は、LC-MS/MS法によるネオニコチノイド系農薬を含む残留農薬131成分の試験を実施します。
なお、明らかに、アカリンダニや腐蛆病などと判断できる状態の群の検査については、検査をお引き受けできない場合があります(アカリンダニや腐蛆病の検査については、現在PCR法などを利用した試験対応の準備中です。また検査対応する場合の法令について確認中ですのでお待ちください)。
なお、農林水産省消費安全局農産安全管理課長通知(平成25年5月30日付け25消安第785号)によれば、、ミツバチの被害事例調査は2013年より継続中で、農薬による被害と考えられる事例があった場合、各都道府県の畜産担当部局に連絡を入れることで、被害状況の事情聴取、現地調査がおこなわれ、死蜂の状況(鮮度など)によっては、担当者が、独立行政法人農林水産消費安全技術センターに送付し、検査が行われる仕組みがあります。(令和元年度の蜜蜂被害軽減対策の推進について(元消安第912号/元生畜第207号/令和元年6月21日)
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