ネオニコチノイド系農薬は、私たちの暮らしに普及し、一般的な農産物を検査すればネオニコチノイド系農薬が検出されるのは珍しくない状況にあります。こうした背景から、一般的な農産物を中心に食べる人であれば、その尿から、高い検出率でネオニコチノイド系農薬が検出される関係にあると推定できることを報告してきました。
では、有機栽培や無農薬栽培をおこなっている農家さんや、そういった農産物を選んで食べている消費者では、その尿からネオニコチノイド系農薬は検出されないのでしょうか。
尿の検査法開発の過程で、精度確認作業のひとつとして、ネオニコチノイド系農薬への「暴露がない」または「暴露が少ない」と考えられる人の尿について試験を実施していました。このショートレポートは、その試験の際に得られた、有機栽培や無農薬栽培をおこなっている農家や、そういった農産物を選んで食べている消費者から提供をいただいた尿についてネオニコチノイド系農薬を含む14成分の検査結果をまとめたものです。
13人に協力をいただき、調査をおこななったところ、13人全員から検出が認められました。こういった食生活や住環境の人であっても、現代においては、ネオニコチノイド系農薬の摂取や暴露などを受けずに生活することは難しいことをうかがわせる結果となっています。
採取された尿を分析試料として、ミニカラムなどを用いて精製処理をおこなった後、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析計を用いた試験法で農薬成分の検出をしました。定性性と定量性を向上するため安定同位体標識付標準品を使用した試験法となっています。(詳細をクリックで続きを表示)
日本農薬工業会の作用機構分類にあるネオニコチノイド系農薬7成分と、近年、ネオニコチノイド系農薬に類似した用途や特徴をもつとされる農薬7成分を対象としています。内訳は以下の通りです。(詳細をクリックで続きを表示)
ネオニコチノイド系殺虫剤7剤 | ジアミド系殺虫剤1剤 |
アセタミプリド | クロラントラニリプロール |
クロチアニジン | フェニルピラゾール系殺虫剤2剤 |
ジノテフラン | エチプロール |
イミダクロプリド | フィプロニル |
ニテンピラム | フロニカミド系殺虫剤1剤 |
チアクロプリド | フロニカミド |
チアメトキサム | ブテノライド系殺虫剤1剤 |
スルホキシイミン系殺虫剤(ネオニコ類似)1剤 | フルピラジフロン |
スルホキサフロル | |
メソイオン系殺虫剤(ネオニコ類似)1剤 | |
トリフルメゾピリム |
グラフに示すように、13人全員からネオニコチノイド系農薬が検出されました。食事や生活環境に由来する農薬が検出されたと考えられます。
尿提供者ID | アセタミプリド | クロチアニジン | ジノテフラン | イミダクロプリド | ニテンピラム | チアクロプリド | チアメトキサム | スルホキサフロル | エチプロール | フィプロニル | フルピラジフロン | トリフルメゾピリム | クロラントラニリプロール | フロニカミド |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
BLK01 | N.D. | N.D. | 0.2 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
BLK02 | N.D. | N.D. | 0.5 | N.D. | N.D. | N.D. | 0.1 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
BLK03 | N.D. | 0.2 | 4.2 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
BLK04 | N.D. | 0.1 | N.D. | N.D. | 0.1 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
BLK05 | N.D. | N.D. | 0.1 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
BLK06 | N.D. | N.D. | 0.4 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
BLK07 | N.D. | N.D. | 0.8 | N.D. | 0.3 | N.D. | 0.2 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
BLK08 | N.D. | 0.4 | 1.6 | N.D. | N.D. | N.D. | 0.1 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
BLK09 | N.D. | N.D. | 0.2 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
BLK10 | N.D. | N.D. | 2.1 | N.D. | N.D. | N.D. | 0.1 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
BLK11 | N.D. | 0.2 | 1.4 | 0.1 | N.D. | N.D. | 0.2 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.3 |
BLK12 | N.D. | 0.2 | 0.2 | N.D. | N.D. | N.D. | 0.1 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.1 |
BLK13 | N.D. | 0.1 | 0.4 | N.D. | N.D. | N.D. | 0.2 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
尿提供者自身から説明を受けた食、住環境の情報を元に作成
(表をクリックで拡大)
2018 | 2019 | 前年比 | |
ジノテフラン | 167 | 158 | 94.6 |
クロチアニジン | 74.8 | 73.5 | 98.3 |
イミダクロプリド | 67.5 | 60.9 | 90.2 |
アセタミプリド | 50.2 | 49.7 | 99.0 |
チアメトキサム | 46.1 | 45.5 | 98.7 |
チアクロプリド | 14.2 | 13.7 | 96.5 |
ニテンピラム | 5.55 | 2.8 | 50.5 |
フルピラジフロン | 0 | 0 | 0.0 |
スルホキサフロル | 5.36 | 10.3 | 192.2 |
トリフルメゾピリム | - | 3.3 | - |
Aya Osaka et al., “Exposure characterization of three major insecticide lines in urine of young children in Japan—neonicotinoids, organophosphates, and pyrethroids,” Environmental Research 147, (2016): 89-96.
(日本の幼児の尿中の3つの主要な殺虫剤系統(ネオニコチノイド、有機リン酸塩、およびピレスロイド)の曝露特性)
Junko Kimura-Kuroda et al., “ENicotine-Like Effects of the Neonicotinoid Insecticides Acetamiprid and Imidacloprid on Cerebellar Neurons from Neonatal Rats,” PLOS ONE, (2012).
(新生児ラットの小脳ニューロンに対するネオニコチノイド系殺虫剤アセタミプリドとイミダクロプリドのニコチン様効果)
Jun Ueyama et al., “Temporal Levels of Urinary Neonicotinoid and Dialkylphosphate Concentrations in Japanese Women Between 1994 and 2011,” Environ. Sci. Technol. (2015), 49, 24, 14522–14528.
(1994年から2011年までの日本人女性における尿中ネオニコチノイドおよびリン酸ジアルキル濃度の時間的レベル)
Kazuhiro Sano1 et al., “TIn utero and Lactational Exposure to Acetamiprid Induces Abnormalities in Socio-Sexual and Anxiety-Related Behaviors of Male Mice,” Front. Neurosci., 03, (2016).
(アセタミプリドへの子宮内および授乳中の曝露は、雄マウスの社会的性的および不安関連行動に異常を誘発する)
ShujiOhno et al., “Quantitative elucidation of maternal-to-fetal transfer of neonicotinoid pesticide clothianidin and its metabolites in mice,” Toxicology Letters 322, (2020): 32-38.
(マウスにおけるネオニコチノイド系農薬クロチアニジンとその代謝物の母体から胎児への移行の定量的解明
)
TBS報道特集:Youtube:ネオニコ系農薬 人への影響は【報道特集】
分析センター調査レポート:市販玄米のネオニコチノイド系農薬残留調査2020
分析センター調査レポート:輸入ワインのネオニコチノイド系農薬など残留調査2018 1st
農林水産省:国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査の結果について
一社)アクト・ビヨンド・トラスト:ネオニコチノイド系農薬残留調査レポート(米・茶)2014
一財)岐阜県公衆衛生検査センター:岐阜県および地下水におけるネオニコチノイド系農薬の調査
PLOS ONE:LC-ESI/MS/MS analysis of neonicotinoids in urine of very low birth weight infants at birth(北海道大学のグループによるネオニコが母体から胎児に移行することを確認した論文)
ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議:ミツバチ・生態系・人間 - (PDF)
この検査は、日本に暮らす人の体からどのような農薬が検出されるかを調べる活動に取り組んでいるデトックス・プロジェクト・ジャパンさんと共同でおこなっているものです。デトックス・プロジェクト・ジャパンさんの申し込みページからお申し込み下さい。
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