2023.2.8公開
一般社団法人農民連食品分析センターでは、2022年10月から受け入れを開始する「尿に含まれるネオニコチノイド系農薬検査」に備えるため、最終の試験系チェックとオペレーションフローの整理などをおこなう目的でオープンプレテスターを公募しました。このショートレポートは、オープンプレテストに参加した19名の検査結果についてまとめたものです。
プレテスターは、2021年8月23日から8月27日までの期間、WEBで募集し、72名の方から応募をいただきました。このうち抽選で20名の方を選び、ご返信があった19名の方を、オープンプレテスターとして採用、検査に参加していただきました。テスターの方には、こちらから指定の採尿キットを配付し、採尿後に郵送で、お届けいただいた試料を試験に使用しました。
この試験では、尿中から検出された対象農薬成分の濃度を測定結果としました。いくつかの大学から報告されているような尿中クレアチニン濃度に基づく補正はおこなっていません。
採取された尿を分析試料として、ミニカラムなどを用いて精製処理をおこなった後、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析計を用いた試験法で農薬成分の検出をしました。定性性と定量性を向上するため安定同位体標識付標準品を使用した試験法となっています。(詳細をクリックで続きを表示)
日本農薬工業会の作用機構分類にあるネオニコチノイド系農薬7成分と、近年、ネオニコチノイド系農薬に類似した用途や特徴をもつとされる農薬7成分を対象としています。内訳は以下の通りです。
ネオニコチノイド系殺虫剤7剤 | ジアミド系殺虫剤1剤 |
アセタミプリド | クロラントラニリプロール |
クロチアニジン | フェニルピラゾール系殺虫剤2剤 |
ジノテフラン | エチプロール |
イミダクロプリド | フィプロニル |
ニテンピラム | フロニカミド系殺虫剤1剤 |
チアクロプリド | フロニカミド |
チアメトキサム | ブテノライド系殺虫剤1剤 |
スルホキシイミン系殺虫剤(ネオニコ類似)1剤 | フルピラジフロン |
スルホキサフロル | |
メソイオン系殺虫剤(ネオニコ類似)1剤 | |
トリフルメゾピリム |
下図に示すように、19人全員からネオニコチノイド系農薬が検出されました。最も高い濃度で検出された成分は、ジノテフランで43.0 ppbでした。また最も多くの人から検出されたのも、ジノテフランで13人から検出が認められました。
尿 提供者 ID |
アセタミプリド | クロチアニジン | ジノテフラン | イミダクロプリド | ニテンピラム | チアクロプリド | チアメトキサム | スルホキサフロル | エチプロール | フィプロニル | フルピラジフロン | トリフルメゾピリム | クロラントラニリプロール | フロニカミド |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
PT01 | N.D. | 0.4 | N.D. | 痕跡 | N.D. | N.D. | 0.2 | 0.3 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D.
PT02 | N.D. | 0.5 | 5.5 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.2 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
PT03 | N.D. | N.D. | N.D. | 痕跡 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
PT04 | N.D. | 2.4 | 0.6 | 0.3 | N.D. | N.D. | 0.1 | 0.5 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.5 |
PT05 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 痕跡 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
PT06 | N.D. | N.D. | 1.2 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.2 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
PT07 | N.D. | 1.4 | 1.8 | 痕跡 | N.D. | N.D. | 痕跡 | 0.3 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
PT08 | N.D. | 0.5 | 0.7 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 痕跡 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
PT09 | 痕跡 | N.D. | N.D. | 痕跡 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
PT10 | N.D. | 0.8 | 10.2 | N.D. | N.D. | N.D. | 0.5 | 1.0 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.3 |
PT11 | N.D. | 0.5 | 5.5 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.2 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
PT12 | N.D. | N.D. | 4.5 | 0.1 | N.D. | N.D. | 0.1 | 0.5 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.4 |
PT13 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.6 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
PT14 | N.D. | N.D. | 1.8 | N.D. | N.D. | N.D. | 0.3 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.4 |
PT15 | N.D. | 0.2 | 0.3 | N.D. | N.D. | N.D. | 0.3 | 0.1 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
PT16 | N.D. | 0.3 | 0.4 | 痕跡 | N.D. | N.D. | 0.3 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 痕跡 | N.D. |
PT17 | N.D. | 0.6 | 4.5 | N.D. | N.D. | N.D. | 0.5 | 0.1 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.4 |
PT18 | N.D. | N.D. | 43.0 | N.D. | N.D. | N.D. | 0.3 | 0.1 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 5.2 |
PT19 | N.D. | 0.3 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | 0.3 | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
尿提供者ID | 品目 |
---|---|
PT01 | りんご(スーパーの慣行栽培) |
PT02 | キウイ・マンゴー・梨・ぶどう・トマト・ブルーベリー・ピーマン・玉ねぎ・人参・枝豆・長葱・せり・大根・ししとう |
PT03 | りんご、なし、米、味噌、枝豆、野菜各種 |
PT04 | バナナ、キウイ、トマト、きゅうり、キャベツ、レタス、オクラ、大根、にんじん、玉ねぎ、茄子、もやし |
PT05 | バナナ、リンゴ、パイナップル、なし、レーズン、お米、 |
PT06 | りんご、バナナ |
PT07 | 人参、大根、サニーレタス、サラダほうれん草、春菊、トマト、カリフラワー、ブロッコリー、ごぼう、椎茸、しめじ、舞茸、えのきだけ、ピーマン、じゃがいも、さつまいも、玉ねぎ、長ネギ、葉ネギ、生姜、にんにく ぶどう、りんご |
PT08 | かぼちゃ、たまねぎ、ブロッコリー、じゃがいも、きゅうり、トマト、白菜、キャベツ、生姜、ニンジン、プルーン、バナナ |
PT09 | オクラ・ピーマン |
PT10 | 人参、玉葱、もやし、ゴボウ、里芋、オクラ、大豆、梨、葡萄、柿、みかん、バナナ、栗 |
PT11 | 無農薬…柿、たまねぎ、にんじん、いんげん、ピーマン、長ネギ、トマト、にんにく、しょうが 慣行栽培…洋梨、ぶどう、ロメインレタス、トマト、れんこん |
PT12 | レタス 人参 大根 しいたけ キャベツ 玉ねぎ 柿 バナナ |
PT13 | 小松菜、人参、ピーマン、じゃが芋、玉葱、長ネギ、ナス(生協と自家菜園) 念のためスーパーで購入した有機等の表示のなかった野菜も記載します(慣行農法だと思います) 枝豆、ぶなしめじ 、春菊、小松菜 各1袋 |
PT14 | 茄子、たまねぎ |
PT15 | 未回答 |
PT16 | りんご、キャベツ |
PT17 | ナス、オクラ、ネギ、ジャガイモ、大豆(納豆含む)、ニンジン |
PT18 | 玉ねぎ ナス キャベツ |
PT19 | きゅうり、トマト |
分析センター調査レポート:202検体の尿中ネオニコチノイド系農薬調査2021, 2022
Aya Osaka et al., “Exposure characterization of three major insecticide lines in urine of young children in Japan—neonicotinoids, organophosphates, and pyrethroids,” Environmental Research 147, (2016): 89-96.
(日本の幼児の尿中の3つの主要な殺虫剤系統(ネオニコチノイド、有機リン酸塩、およびピレスロイド)の曝露特性)
Junko Kimura-Kuroda et al., “ENicotine-Like Effects of the Neonicotinoid Insecticides Acetamiprid and Imidacloprid on Cerebellar Neurons from Neonatal Rats,” PLOS ONE, (2012).
(新生児ラットの小脳ニューロンに対するネオニコチノイド系殺虫剤アセタミプリドとイミダクロプリドのニコチン様効果)
Jun Ueyama et al., “Temporal Levels of Urinary Neonicotinoid and Dialkylphosphate Concentrations in Japanese Women Between 1994 and 2011,” Environ. Sci. Technol. (2015), 49, 24, 14522–14528.
(1994年から2011年までの日本人女性における尿中ネオニコチノイドおよびリン酸ジアルキル濃度の時間的レベル)
Kazuhiro Sano1 et al., “TIn utero and Lactational Exposure to Acetamiprid Induces Abnormalities in Socio-Sexual and Anxiety-Related Behaviors of Male Mice,” Front. Neurosci., 03, (2016).
(アセタミプリドへの子宮内および授乳中の曝露は、雄マウスの社会的性的および不安関連行動に異常を誘発する)
ShujiOhno et al., “Quantitative elucidation of maternal-to-fetal transfer of neonicotinoid pesticide clothianidin and its metabolites in mice,” Toxicology Letters 322, (2020): 32-38.
(マウスにおけるネオニコチノイド系農薬クロチアニジンとその代謝物の母体から胎児への移行の定量的解明
)
TBS報道特集:Youtube:ネオニコ系農薬 人への影響は【報道特集】
分析センター調査レポート:市販玄米のネオニコチノイド系農薬残留調査2020
分析センター調査レポート:輸入ワインのネオニコチノイド系農薬など残留調査2018 1st
農林水産省:国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査の結果について
一社)アクト・ビヨンド・トラスト:ネオニコチノイド系農薬残留調査レポート(米・茶)2014
一財)岐阜県公衆衛生検査センター:岐阜県および地下水におけるネオニコチノイド系農薬の調査
PLOS ONE:LC-ESI/MS/MS analysis of neonicotinoids in urine of very low birth weight infants at birth(北海道大学のグループによるネオニコが母体から胎児に移行することを確認した論文)
PLOS ONE:LC-ESI/MS/MS analysis of neonicotinoids in urine of very low birth weight infants at birth(北海道大学のグループによるネオニコが母体から胎児に移行することを確認した論文)
ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議:ミツバチ・生態系・人間 - (PDF)
この検査は、日本に暮らす人の体からどのような農薬が検出されるかを調べる活動に取り組んでいるデトックス・プロジェクト・ジャパンさんと共同でおこなっているものです。デトックス・プロジェクト・ジャパンさんの申し込みページからお申し込み下さい。
ご事情や調査目的などで、デトックス・プロジェクト・ジャパンさんの検査プロジェクトを利用せず、直接での検査を希望される場合の依頼にも対応しております。この場合は、お手数ですが、農民連食品分析センターに直接お問い合わせください(電話03-5926-5131/power8@nouminren.ne.jp)。
農民連食品分析センターは、1996年に多くの農業者や消費者の募金により設立された背景を持つ世界的にも珍しい分析施設です。募金による設立のため、企業や行政などの影響を受けることなく、独立した立場で活動を行っています。
1996年の設立以来、私たちの調査活動は、募金で運営されています。正直なところ、私たちの活動に必要な財政は厳しいところにあります。消費者や農民の立場に立った活動を続けていくためにも、みなさんからの支援が欠かせません。
分析センターを支援していただく会員「分析センターサポーター会員」の募集をしています。年会費一口5,000円以上で、サポーター会員になることが出来ます。私たちの活動を支えてください。よろしくお願い致します。