2020年7月、ニュージーランド政府の第一次産業省が、ニュージーランド産のはちみつから除草剤のグリホサートが検出されること、また出荷前のはちみつに違反品相当が見受けられることなどをまとめたレポートを発表し、話題となりました(この調査レポートについての解説は、第1報をご参考下さい)。ちょうどコロナウィルスが大きな問題になっているなかで、抗酸化作用が高いというマヌカハニーに人気が集まり、その輸入や需要が拡大していた時期に公開されたレポートであったことから、取扱業者だけでなく消費者に与えた影響は大きいものでした。
その翌年の1月8日、ニュージーランド産はちみつは、検疫所のモニタリング検査で、残留基準値0.01ppm(一律基準)を超過するものが、継続して検出されたという実態に基づき、輸入業者に対して検査命令(輸入するたびに、そのロットごと必ず検査をしなければいけない制度。違反の恐れが高い食品について実施される。食品衛生法第26条第3項に基づく検査命令。)の対象品目となり、現在に至っています。
厚生労働省:輸入食品に対する検査命令の実施(ニュージーランド産はちみつ、その加工品)
このニュージーランド産はちみつでの検出をきっかけに、グリホサートがはちみつに残留しているという課題は、すこしずつ知られるようになっていきます。2020年12月には、レンゲ印で知られる日本蜂蜜株式会社が、一律基準を遵守したアルゼンチン産はちみつの輸入と販売は困難であるとして、取り扱いを休止する苦渋の決断を発表をしています。
このような動きは、はちみつ業界内(と相談を受けた厚生労働省内)に伝えられていきましたが、まだ一般消費者にはあまり知られていない状況にありました。ところが、2021年、週刊新潮(関連記事リンク:10月14日号および21日号)で、業界最大手であるサクラ印はちみつ(株式会社加藤美蜂園)が、同社の販売するアルゼンチン産はちみつ製品に、残留基準値を違反している製品があることを知りながら流通していた実態について報道したのがきっかけとなり、はちみつに残留するグリホサートに関心が集まります。その結果、スーパーなどからアルゼンチン産はちみつが消えるなどの事態へと状況は急変します。この報道以降、はちみつの輸入業者、販売業者は検査に取り組み、製品の品質についての告知や自主回収などをおこなう例も増えているようです。
この課題は、アルゼンチン産はちみつに限ったものではなく、グリホサートが汎用的に使用される国々に共通すると考えられることから、国産はちみつでも起きる可能性があります。2017年の統計では、日本のグリホサートの出荷量は約5,670トンで、農業だけでなく生活環境など様々な場所で使用されている実態があります。実際に、第1報で示したように、国産はちみつでも、一律基準と同値のグリホサートが検出される実態があることを確認しました。
本報は、第1報後に検査を行った国産はちみつのグリホサート残留状況について、検査依頼者の公開同意が得られたものについてのみ、まとめたものです。
表1に示すように、検査品からグリホサートが、複数の検体から検出されました。 2検体については、一律基準を超過していることが確認されました。国産であっても、一律基準を上回るグリホサートが残留するはちみつが生産される場合があるようです。
No. | 商品名 | 蜜源 |
分析結果(ppm) | 調査年 |
残留基準値(ppm) |
1 | はちみつ | 不明 | 痕跡 |
2020 | 一律基準(0.01) |
2 | はちみつ | 不明 | 0.01 |
2021 | 一律基準(0.01) |
3 | はちみつ | 百花蜜 | 検出せず |
2021 | 一律基準(0.01) |
4 | はちみつ | 百花蜜 | 0.01 |
2021 | 一律基準(0.01) |
5 | はちみつ | 百花蜜 | 検出せず |
2021 | 一律基準(0.01) |
6 | はちみつ | 百花蜜 | 0.02 (グルホシネートも痕跡で検出) |
2021 | 一律基準(0.01) |
7 | はちみつ | 百花蜜 | 検出せず |
2021 | 一律基準(0.01) |
8 | はちみつ | 百花蜜 | 0.10 |
2021 | 一律基準(0.01) |
9 | はちみつ | 百花蜜 | 痕跡 |
2021 | 一律基準(0.01) |
10 | はちみつ | 百花蜜 | 0.01 |
2021 | 一律基準(0.01) |
11 | はちみつ | 百花蜜 | 0.01 |
2021 | 一律基準(0.01) |
12 | はちみつ | 百花蜜 | 痕跡 |
2021 | 一律基準(0.01) |
ニュージーランド第一次産業省:New Zealand National Chemical Residues Programme Report
厚生労働省:輸入食品に対する検査命令の実施(ニュージーランド産はちみつ、その加工品)
デイリー新潮:【独自】トップシェア「サクラ印ハチミツ」に基準値超えの発がん性疑惑農薬 役員らは隠蔽
株式会社加藤美蜂園:アルゼンチン産およびカナダ産はちみつの自主回収に関するお詫びとお願い第1報 / 第2報 / 第3報
厚生労働省:「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件(案)」(農薬等(MCPA等48目)の残留基準の改正及びゲンチアナバイオレット試験法の設定)に関する御意見の募集について
ミツバチが作るハチミツ, 玉川大学中村純教授, 日本化学学会「化学と教育」, 61巻8号, 2013.
EFSA JOURNAL:The 2016 European Union report on pesticide residues in food
分析センター調査:大量死したミツバチの農薬暴露調査とはちみつ中の残留農薬調査2020
分析センター調査:日本産ハチミツにもグリホサートが残留している可能性について
有機農業ニュースクリップ(2020.07.30, No.1048):NZハチミツの2割からグリホサートを検出
ハチミツに残留する残留農薬分析についての検査相談に対応しています。ネオニコチノイド系農薬のほか、除草剤グリホサートなど、さまざまな農薬成分について検査を行っています。
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