2021.11.18公開
Tweet 尿に含まれるネオニコチノイド系農薬を検査し、食生活や環境と向き合う情報として知りたいというご要望に応えるため、尿中に含まれるネオニコチノイド系農薬7成分などを検出する試験のお受け入れを開始しました。この検査は、医療や臨床的な診断をおこなうためのものではなく、私たちが普段の暮らしの中どの程度、こうしたタイプの農薬を摂取しているのかを知るためものです。
この検査は、日本に暮らす人の体からどのような農薬が検出されるかを調べる活動に取り組んでいるデトックス・プロジェクト・ジャパンさんと共同でおこなっているものです。デトックス・プロジェクト・ジャパンさんの申し込みページからお申し込み下さい。
ご事情や調査目的などで、デトックス・プロジェクト・ジャパンさんの検査プロジェクトを利用せず、直接での検査を希望される場合の依頼にも対応しております。この場合は、お手数ですが、農民連食品分析センターに直接お問い合わせください(電話03-5926-5131/power8@nouminren.ne.jp)。
日本農薬工業会の作用機構分類にあるネオニコチノイド系農薬7成分と、近年、ネオニコチノイド系農薬に類似した用途や特徴をもつとされる農薬7成分を対象としています。内訳は以下の通りです。(詳細をクリックで続きを表示)
ネオニコチノイド系殺虫剤7剤 | ジアミド系殺虫剤1剤 |
アセタミプリド | クロラントラニリプロール |
クロチアニジン | フェニルピラゾール系殺虫剤2剤 |
ジノテフラン | エチプロール |
イミダクロプリド | フィプロニル |
ニテンピラム | フロニカミド系殺虫剤1剤 |
チアクロプリド | フロニカミド |
チアメトキサム | ブテノライド系殺虫剤1剤 |
スルホキシイミン系殺虫剤(ネオニコ類似)1剤 | フルピラジフロン |
スルホキサフロル | |
メソイオン系殺虫剤(ネオニコ類似)1剤 | |
トリフルメゾピリム |
採取された尿を分析試料として、試験に不要な成分をミニカラムなどを用いて精製処理をおこなった後、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析計を用いた試験法で農薬成分の検出をします。定性性と定量性を向上するため放射性同位体標識付標準品を使用した試験法となっています。(詳細をクリックで続きを表示)
試験法開発のため、事前におこなった分析センタースタッフとその家族の尿7検体について試験した結果を紹介します(参考資料)。スタッフ全員からネオニコチノイド系農薬が検出されていることがわかります。これは食事や生活環境に由来する農薬が検出されたと考えられます。食べる農産物の栽培方法には、ある程度、選択やこだわりを持つスタッフもいますが、それでも検出されるようです。(詳細をクリックで続きを表示)
国内外の研究報告などを見ても、ネオニコチノイド系農薬が尿から検出される頻度は、かなり高い状況にあるようです。特に、今回のデータでは、ネオニコチノイド系農薬のジノテフランの検出頻度が高いことがわかります。このデータ以外の検査でも、ジノテフランは多くの方の尿から検出されることがわかっています。ジノテフランは、私たちの調査や東京都健康安全研究センターの年報からも推測されるように、食品からの検出頻度が高い農薬です。日本の農産物生産に使用されるジノテフランを主成分にする農薬製品は、かなり多く、また登録作物が豊富であることから、使用しやすい位置づけにあることが背景と考えられます。
スタッフHとスタッフH妻は検出される農薬の傾向が類似しています。共通する食べものを摂取していることが、尿に検出される農薬の種類に関係していると考えられます。
尿から農薬が検出されることと、健康影響の関係については、近年様々な論文が発表はされていますが、まだ因果関係がよくわかっていない段階と考えられます。体内に入っても低用量であったり、速やかに排出されるなどであれば、影響は大きくないとされています。このようにネオニコチノイド系農薬は、旧来の農薬に比べ低毒性であるとして定評がある位置づけにありますが、一方で、血液脳関門や胎盤などを容易に通過することが報告されており、より詳細な研究が求められている一面があります。
ネオニコチノイド系農薬は、浸透移行性で、低濃度でも昆虫には高い殺虫能力をもっています。植物に吸収され、長く効果が得られることから広く普及しています。直接散布する方法だけでなく、粒剤として農作物の土壌に施用し、それを農作物が吸収することで、植物体全体に行き渡らせ、長く、効果的な殺虫性能を発揮させるような使用方法などもあります。(詳細をクリックで続きを表示)
この特徴は、高齢化とともに、効率性や経済性を強く追い続けなければいけない現在の農業では、欠かせない有効な農薬として評価されていますが、一方で、農作物に浸透し(調査データ1)、残効性が長い特徴は、関心のある消費者にとっては食品への残留と摂取に繋がっているとして、関心が集まっています。実際、私たちの施設で市場調査をおこなうと、濃度は基準値に比べ、かなり低いものの、検出率は高い傾向あり、さまざまな食品を通して摂取していることがわかります(調査データ2/調査データ3)。(詳細をクリックで続きを表示)
ネオニコチノイド系農薬は、ハチなど、生態系へ影響を与えている可能性が高いという調査結果に基づき、EU諸国では、使用禁止となったことがよく知られています。ほかにも海外には、規制への議論を進めている国があります(有機農業ニュースクリップ:ネオニコの各国規制情報)。日本では、再評価対象の農薬としてリストされたり、農林水産省が将来の食糧政策のビジョンをまとめた「みどりの食料システム戦略」にも削減を目指す農薬として上げられたりはしていますが、今のところ、大幅な規制を進める具体的な状況には、まだありません。
ネオニコチノイド系農薬は、生態系への影響が中心に議論と規制の動きが進められてきましたが、最近では、人体への影響の可能性を指摘する報告や論文も見受けられるようになりました(報告1/論文2/論文3/論文4/論文5)。例えば、新生児の尿に検出されるネオニコチノイド系農薬の量と出産時の体格には相関があるのではないかかを指摘するものもあります(論文6)。
ネオニコチノイド系農薬が、人体に与える影響についてはまだはっきりとしていないところがあるようですが、少なくとも、私たちが日常生活でどの程度暴露しているかを探る調査には、その影響の有無を考察をしていく上で大きな意義があると言えます。
これまでに報告されている研究や調査によれば、農薬を含まない食事に切り替えることで、尿中に検出されるネオニコチノイド系農薬などは減っていくようです。2018年に特定NPO福島県有機農業ネットワークさんらが北海道大学と連携をしておこなった調査がよく知られています。(詳細をクリックで続きを表示)
この調査では、慣行食材から有機食材に切り替えると、5日間で尿中の検出されるネオニコチノイド系農薬が、54%減ったことが示されています(一社アクト・ビヨンド・トラスト:2018研究助成報告:特定NPO福島有機農業ネットワーク最終報告)。
また環境保護団体グリーンピースさんらが2016 年におこなった調査では、ネオニコチノイド系農薬については、もともとの濃度が低かったため、減少を示すデータにはなっていませんが、有機リン系農薬や除草剤グリホサート、ピレスロイド系農薬は、1週間で減っていったことが報告されています。
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