はじめに
遺伝子組換え作物の自生は、日本では、遺伝子組換えナタネがよく知られています。この問題については、私たちのセンターや市民グループ、環境省、農林水産省でも、長く調査活動に取り組んできました(遺伝子組換えナタネ調査隊)。
遺伝子組換え作物の自生は、ナタネ以外の植物でも確認されており、ワタやとうもろこし、大豆などがあげられます。いずれも、陸揚げや運送が行われている場所やそれを運搬するルート上で、自生が起きることが報告されています。
2017年7月、練馬区の目白通りでとうもろこしが自生しているのを発見しました。葉などの外観的特徴からはスイートコーンである可能性が考えられましたが、目白通りのこの場所は、海上輸送などに用いられる40ftのドライコンテナを積んだ車両など、海外との運送に関連しているとみられる車両が通行しています(地図)。このような背景を考慮すると、積荷や動物用飼料を運搬する車両からデントコーンが、こぼれ落ちて自生しているという、可能性も否定できないと考えました。
そこで、この個体の葉の一部を持ち帰り、PCR法を用いた遺伝子組換え検出検査を実施してみました。その結果についてまとめたショートレポートを作成しました。
分析方法などについて
- 遺伝子組換えトウモロコシがもつ特定の遺伝子配列を含有するかについて定性試験を行いました。本結果は定量性を有さず組換え遺伝子の有無のみを検定した結果となります。
- 2017年7月27日、道路脇に生育している個体の葉を一部採取した。
- 採取された葉からDNAを抽出精製、PCR法にて、試験を実施しました。
- 対象とした遺伝子組換えとうもろこし品種は、GA21, Bt11,E176, T25, MON810の5系統となります。以下に、5系統の親にあたる品種について記述しておきます。なお、今回の調査では、研究費の都合、CBH351は調査対象としませんでした。
- 遺伝子組換えトウモロコシGA21
品種コード:MON-00021-9
商品名:ラウンドアップレディ(TM)トウモロコシ、Agrisur(TM)GT
開発者:モンサント社
発現形質:除草剤耐性(グリホサート/mepsps)
- 遺伝子組換えトウモロコシBt11
品種コード:SYN-BT011-1
商品名:Agrisure(TM) CB/LL
開発者:シンジェンタ社
発現形質:害虫抵抗性(Btトキシン/Cry1Ab)と除草剤耐性(グルホシネート/pat)
- 遺伝子組換えトウモロコシE176(Bt176やただの176とも呼ぶ)
品種コード:SYN-EV176-9
商品名:NaturGard KnockOut(TM) 、 Maximizer(TM)
開発者:シンジェンタ社
発現形質:害虫抵抗性(Btトキシン/Cry1Ab)と除草剤耐性(グルホシネート/bar)、アンピシリン耐性
- 遺伝子組換えトウモロコシT25
品種コード:ACS-ZM003-2
商品名:Liberty Link(TM) Maize
開発者:バイエルクロップサイエンス社
発現形質:除草剤耐性(グルホシネート/pat(syn))
- 遺伝子組換えトウモロコシMON810
品種コード:MON-00810-6
商品名:YieldGard(TM), MaizeGard(TM)
開発者:モンサント社
発現形質:害虫抵抗性(Btトキシン/cry1Ab)、除草剤耐性(グリホサート/CP4 EPSPS)、除草剤分解(グリホサート/GOXv247)
- 試験はPCR法により、スクリーニング試験として遺伝子組換えトウモロコシGA21系統(GA21)および残り4系統に共通する組換え遺伝子(CaMV 35S Promoter)を検出するプライマー対での増幅反応を実施し、検出の有無を確認しました。さらに、CaMV 35Sに陽性であった製品については、組換えトウモロコシBt11系統、E176系統、T25系統、MON810系統を特異的に検出するプライマー対を用いた増幅を行い、品種の特定を行いました。増幅反応の確認には、トウモロコシ内在性遺伝子zeinの増幅について行いました。
- プライマー対はニッポンジーン製GMトウモロコシ検査用を使用しました。
- 試験は、JAS分析試験ハンドブック遺伝子組換え食品検査・分析マニュアル 改訂第2版に基づき実施しました。選択した分析条件は以下の通りです。
- 抽出精製:Quiagen社DNeasy Maxi plant kit
- PCRサーマルサイクラー:GeneAmp PCR System 9700
- 使用Taq polymerase:AmpliTaq Gold 360
結果
表1に示すように、組換え遺伝子は検出されませんでした。
表1 遺伝子組換えとうもろこし検出試験の結果
ID
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サンプル名
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採取場所
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検査結果
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1 |
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とうもろこし
(葉) |
目白通り都道8号線の東京都練馬区中村北1丁目付近
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検出せず |
考察と補足
- 採取されたとうもろこしから、遺伝子組換え配列は検出されませんでした。自生していたとうもろこしは、日本で流通が認められている遺伝子組換えとうもろこしではないことが確認されました。
- デントコーンかスイートコーンであるかについては、解析をしませんでした。
- 日本は、遺伝子組換えとうもろこしを、食品原材料や動物用飼料としてアメリカなどから輸入しています。動物用飼料用として流通される、いわゆる配合飼料にはこのようなとうもろこしが含まれています。牛用などに使われる配合飼料の袋を覗いてい見れば、牧草のペレットなどに混ざってとうもろこしなどが入っていることがわかります。これらのとうもろこしは、圧扁されたもののほかに、種そのままのものもあります。種そのままのものは、輸送中にこぼれ落ち、遺伝子組換えとうもろこしの自生につながることもあると考えられます。
- とうもろこしは、交雑が起きやすい特徴を持ちます。また花粉が遠くまで飛ぶことから、遺伝子組換えとうもろこしの自生が、周辺のとうもろこしと交雑することも考えられます。しかし、幸い現在の日本の農業では、とうもろこしを自家採種する農家はほとんど無いため、こういった交雑が実際に発生していても、世代を重ねて、特許で保護される遺伝子配列が広まっていくことは考えにくいとはいえます。また、とうもろこし自体が、日本の気候風土の条件では、世代を重ねた自生することも起こりにくいともいわれています。特に、今回、採取された練馬区の目白通り沿いでは、とうもろこしの栽培を広く行っている場所はあまり見かけられないことから、交雑の心配はあまりないと考えられます。
- しかし、採取されたとうもろこしの由来が、どこから来たのかがわかっていないことから、今後も、この道路沿いで同様の自生の発生が起きていないかについては、注意を払う必要があると考えられます。動物用飼料や海外からの輸送コンテナなどからこぼれ落ちたデントコーンだとすれば、遺伝子組換えとうもろこしを含む積荷が、目白通り上を移動していることになります。よって、今回自生していたものは、たまたま遺伝子組換えではなかったに過ぎず、場合によっては、遺伝子組換えの個体が自生する可能性はあるといえます。また、このような輸送が行われる場所では、とうもろこしだけではなく、ナタネ、大豆、ワタなどの自生が発生する可能性も考えられます。今後も、道路周辺に注意を払っていきたいと思います。
- なお、とうもろこし、大豆、なたねのの遺伝子組換え品種は、国内カルタヘナ法での承認が終了しており、自生が発生しても、生物多様性に影響を及ぼさないとされています。しかし、本当に影響を及ぼしていないかどうかについては、継続した調査研究が続けられています(環境省:J-BCH/農林水産省:カルタヘナ法に基づく生物多様性の保全に向けた取組)。
- 遺伝子組換え作物の自生については、新しいトピックスがあります。とうもろこしではなく、遺伝子組換えナタネについてですが、最近、海外でまとめられたものがありました。アメリカのArkansas州立大学のグループによれば、調査をおこなった高速道路5,600kmに渡り、自生するナタネの80.2%が遺伝子組換えであったことが報告されています(The Establishment of Genetically Engineered Canola Populations in the U.S.)。また、アルゼンチンでは、自生していた遺伝子組換えナタネ(Brassica napus)が、在来ナタネ(Brassica rapa)と交雑し、B.rapaが遺伝子組換えの配列をもち、大きな群落となって自生していたことが報告されています(Transgene escape and persistence in an agroecosystem: the case of glyphosate-resistant Brassica rapa L. in central Argentina.)。
- また、日本国内では、輸入ワタの自生の報告もあります(「平成28年度ワタの生育実態等調査」の結果について)。2017年11月29日発表の農林水産省のレポートによれば、農林水産省が、2016年11月上旬から12月上旬の間に、飼料や搾油関連倉庫や工場周辺、7施設、および運搬路を調査したところ、1個体のワタの自生を確認したと報告しています(2014年は1個体、2015年は4個体)。ワタの自生調査をなぜ「冬」に行うのかという点と、採取されたワタが遺伝子組換えであるかどうかを確認していないところが、しっくりいかない報告ではありますが、輸入によって、発芽可能な状態の種子がこぼれ落ち、思いがけないところに、把握していない状態で、植物が自生してしまうことは起こりうるようです。なお、輸入の綿の種子はかなりの確率で、遺伝子組換えであると私たちは考えています。ワタと交配可能な近縁の植物は、あまり見かけられないので、この様は形で、遺伝子組換えワタが自生することによって、交雑などは起こりにくいとは考えられますが、より詳しい調査は必要と考えられます。
- 最近、私たちは、遺伝子組換えワタについて、プレ調査をおこなっています。それの結果によれば、1,日本国内で動物用飼料に混ざって流通されるワタ種子には遺伝子組換えのものがみつかること、またそれらは発芽が可能な状態であること。2,日本国内で、景観植物などとして、綿の栽培を行っているグループなどが使用している種子には、遺伝子組換えワタが混ざっている可能性があること、などが推測されている結果があります。遺伝子組換えワタに関連した報告は、機会を改めて紹介をしていきたいと思っています。また、みなさんの手を借りて、日本国内で栽培されるワタの遺伝子組換え調査を実施できないかを検討しています。
- 今回調査したような自生は、みなさんのまわりでも起こりうると言えます。身の回りで、とうもろこしや大豆、ワタ、ナタネなど、興味深い自生をしている場所を見つけた折は、私たちの施設への情報をお届けください。
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