[速報]ポテトチップスなどの残留農薬調査2025

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2025.12.10公開

はじめに

 2025年6月に、ジャガイモを原材料とするお菓子27製品を購入し、354成分の残留農薬検査を実施しました。その結果、いくつかの製品から、残留農薬を検出しました。いずれも食品衛生法に定める残留基準値以内での検出でしたが、ネオニコ系殺虫剤、ポストハーベストとして使用された可能性のある殺菌剤、そして、芽つぶし剤のクロルプロファム(Chlorpropfam)、などが検出されています。
 最近、ポテトチップス製品の原材料表記を見ると、かなりの製品に「じゃがいも(国産またはアメリカ産)」といった表記が目立つようになっていることに気がついているでしょうか。もともと日本は、アメリカ産の生食用じゃがいもの輸入を禁止していました。これは、輸入された生のじゃがいもが不適切に流出したり、種芋として利用されてしまうと、ジャガイモシストセンチュウという害虫の侵入を招き、国内生産にダメージを与える可能性があるとされているからでした。ところが、アメリカからの要請があり、2006年にポテチ加工用に限定して2~7月までの間、輸入を認める緩和を実施しました(リンク1/リンク2)。この緩和によって、これまで国産じゃがいもに限られていたポテトチップス製造が、原材料に輸入じゃがいもも選択できるようになる大きな変化を迎えることになりました。

 輸入のジャガイモを原材料に使用するメーカーが目立つようになった直接的理由については、利用するメーカーさんに直接尋ねないとわからないことではありますが、少なくとも私たちの身近なおやつであるポテトチップスの原材料に輸入材料が使用される割合が高まっている状況にあることは確かです。

 今回の調査で検出された農薬のうち、特に注視しているのが除草剤「クロルプロファム」です。アメリカなどの海外の国では、クロルプロファムは、じゃがいもが倉庫などでの保存中に芽が出ないよう、芽つぶし剤として使用されることがある農薬成分として知られています(リンクPDF:横浜国大環境研紀要21,17-22(1995))。2000年頃に行った私たちの調査でも、ハンバーガー店や冷凍食品として販売されるフライドポテトなどのうち、アメリカ産じゃがいもを使用しているとみられる製品から、高い頻度で検出されることを確認していました(PDFリンク)。今回の調査では、これまでの検出傾向に加えて、新たにポテトチップスなどより身近な製品からも検出、摂取される実態に変わっていることがわかってきました。

 なお、日本では、このようなクロルプロファムの使用は認められておらず、国産じゃがいもからクロルプロファムが検出されることはありません。残留基準値より小さいとはいえ、クロルプロファムを避けたいと考える方は、国産のじゃがいもを使用する製品を選ぶことが良いようです。

 このレポートは、第一報(速報版)となります。メディアの報道や国会質疑などで、この調査のデータが引用されているため、その内容を確認できるよう、いそぎ公開したものです。より詳細な解説や背景などについては後ほど追記していく予定です。ご了承をお願い致します。

検査サンプルと検査法について

 2025年6月、じゃがいもを原材料とする27製品を購入し、残留農薬一斉分析354成分検査を実施しました。検査対象とした農薬成分はリストをご参考下さい。 検査法についての詳細は、各検査法のページをご確認ください。

 製造国は、スペイン、カナダ、マレーシア、ベトナム、日本と5カ国でした。

 原材料のじゃがいもに該当する品目は、じゃがいもを原材料とする製品が、20製品、ポテトフレークが3製品、乾燥じゃがいもが6製品でした。

 原材料のじゃがいもの原産国の表記は、記載なしが7製品、外国製造3製品、アメリカ1製品、アメリカ製造又はドイツ又はその他2製品、アメリカ又はドイツ8製品でした。

分析結果について

 結果は以下の通りです。検出された農薬の検出濃度の単位はppmです。

表1 ポテトチップスなどの残留農薬分析結果 2025年[速報]

No. 試料写真 試料名 製品の製造国 原材料じゃがいもの原産国 分析結果(ppm)
S01
(裏面)

ドンキホーテ情熱価格
オリーブオイル
ケトルチップス

賞:2025.07.24
LOT:24091l:38 2 

スペイン じゃがいも
(記載なし)

クロチアニジン
チアメトキサム

0.01
0.010
S02
(裏面)

ドンキホーテ情熱価格
アボカドオイル
ケトルチップス

賞:2025.11.18
LOT:53049

 

カナダ

じゃがいも
(記載なし)

クロルプロファム

6.944

S03
(裏面)

ドンキホーテ情熱価格
キャニスター
ポテトチップス

賞:2026.06.20
AAHE YC2

 

マレーシア ポテトフレーク
(記載なし)

検出せず

 
S04
(裏面)

湖池屋
ストロングウェーブ

LOT:20251209


ベトナム ばれいしょ
(記載なし)

検出せず

 
S05
(裏面)

森永製菓
ポテロングしお味

LOT:2025.09 AB3

日本 乾燥じゃがいも
( 外国製造)
クロチアニジン
ジノテフラン
クロルプロファム
0.00
痕跡
1.018
S06
(裏面)
カルビー(株)
じゃがりこ
サラダLサイズ


LOT:25.10.15
L2+G5F15R11EC2
日本 じゃがいも
(国産)
乾燥じゃがいも
(記載なし)
アゾキシストロビン
チアメトキサム
クロルプロファム
痕跡
痕跡
0.058
S07
(裏面)
カルビー(株)
Jagabeeうすしお味


LOT:2025.11
+NU 5F19
L2 003 024383
日本 じゃがいも
(アメリカ)
乾燥じゃがいも
(記載なし)
イミダクロプリド
クロルプロファム
0.02
1.979
S08
(裏面)
(株)ブルボン
プチポテト
うすしお味


LOT:2026.03
SI25G13K250C
日本 乾燥じゃがいも
(記載なし)
イミダクロプリド
チアメトキサム
クロチアニジン
クロルプロファム
0.014
0.006
痕跡
0.166
S09
(裏面)
(株)湖池屋
すっぱムーチョ梅


2025.11
ウ5D290 +K
日本 馬鈴薯(日本) 検出せず  
S10
(裏面)
山芳製菓(株)
わさビーフ


2025.10
(F.09)L15+YSA
日本 じゃがいも
(国産)
検出せず  
S11
(裏面)
(株)湖池屋
カラムーチョ


2025.11
エ0C240+K
日本 馬鈴薯(日本) 検出せず  
S12
(裏面)
(株)湖池屋
ピュアポテト


22025.11
キ3B100+R
日本 馬鈴薯(日本) 検出せず  
S13
(裏面)
(株)湖池屋
フライドポテト神のり塩


2025.10
ハ3C250+M
日本 馬鈴薯(日本) 検出せず  
S14
(裏面)
(株)湖池屋
ストロング海苔ざんまい


2025.10
ケ2E250+M
日本 馬鈴薯(日本) 検出せず  
S15
(裏面)
(株)湖池屋
スティックポテト


2025.10
カ2L200+S
日本 馬鈴薯(日本) 検出せず  
S16
(裏面1)(裏面2)
ヤマザキビスケット(株)
チップスターうすしお


2026.04
D24B818
日本

ポテトフレーク
(アメリカ製造
またはドイツ又はその他)

クロチアニジン
イミダクロプリド
チアメトキサム
クロルプロファム
0.006
痕跡
0.006
0.197
S17
(裏面1)(裏面2)
ヤマザキビスケット(株)
チップスターコンソメ


2026.04
D23A310
日本 ポテトフレーク
(アメリカ製造
またはドイツ又はその他)
クロチアニジン
イミダクロプリド
チアメトキサム
クロルプロファム
0.006
0.005
0.005
0.181
S18
(裏面)
カルビー(株)
クリスプうましお味


2025.08
5C25 17968 1DH35
日本 乾燥じゃがいも
(外国製造)
クロチアニジン
チアメトキサム
クロルプロファム
0.007
痕跡
0.607
S19
(裏面)
カルビー(株)
クリスプ塩とごま油味


2025.08
5C27 13815 2GF14
日本 乾燥じゃがいも
(外国製造)
クロチアニジン
チアメトキサム
クロルプロファム
痕跡
痕跡
0.450
S20
(裏面)
カルビー(株)
ポテトチップス
うすしお味


2025.08
5C27 13815 2GF14
日本 じゃがいも
(国産又はアメリカ)
検出せず  
S21
(裏面)
カルビー(株)
ポテトチップス
コンソメパンチ


2025.10
5E15 18104 EBR34 +b
日本 じゃがいも
(国産又はアメリカ)
検出せず  
S22
(裏面)
カルビー(株)
ポテトチップス
のりしお


2025.10
5E18 21509 1FG15 +G
日本 じゃがいも
(国産又はアメリカ)
検出せず  
S23
(裏面)
カルビー(株)
ポテトチップス
しあわせバター


2025.09
5D27 35308 5EU47 +C
日本 じゃがいも
(国産又はアメリカ)
検出せず  
S24
(裏面)
カルビー(株)
ポテトチップス
濃厚キング
サワークリーム&オニオン味

2025.10
5E10 05285 1NC35 +G
日本 じゃがいも
(国産又はアメリカ)
検出せず  
S25
(裏面)
カルビー(株)
ポテトチップス
濃厚キング旨辛ゴッドチリ味

2025.10
5E08 07350 1DE14 +G
日本 じゃがいも
(国産又はアメリカ)
検出せず  
S26
(裏面)
カルビー(株)
堅あげポテト
ブラックペッパー


2025.10
5E09 47506 2FU43 +G
日本 じゃがいも
(国産又はアメリカ)
検出せず  
S27
(裏面)
カルビー(株)
ピザポテト


2025.10
5E17 47628 1NU16 +G
日本 じゃがいも
(国産又はアメリカ)
検出せず  

考察

  • 27製品のうち10製品から残留農薬の検出が認められました。
  • 検出された農薬について、食品衛生法の残留基準値には、「ポテトチップス」という品目での設定はないため、「一律基準 = 0.01 ppm」が適用になります。一律基準で、今回、検出された残留農薬の検出値の適正性をみますと、超過している成分があることになりますが、加工食品の場合では、元の原材料で、残留基準値を越えていなければ、問題ないものとして判断を行うことが認められています。農林水産省の資料によれば、生のじゃがいもから、ポテトチップスに加工を行った場合の換算係数(加工係数)は「3.1」とされています。つまり、ポテトチップスから検出される残留農薬も3.1倍に濃縮されているとみなして適正性を判断することができます(コメント:調理によって農薬が分解などしていれば、この計算は成り立たないわけですが)。この換算係数を元に、残留基準値と検出値を比較すると、今回、調査で農薬が検出されたいずれの製品も、原材料としては、基準値を満たしたものを使用していることになるようです。

    表2 今回検出が認められた農薬成分のうち、じゃがいもに設定されている残留基準値
    成分名 基準値
    アゾキシストロビン 7
    イミダクロプリド 0.4
    クロチアニジン 0.3
    クロルプロファム 30
    ジノテフラン 0.2
    チアメトキサム 0.3
  • 発芽抑制剤(芽つぶし剤)のクロルプロファムは、8製品から検出されました。検出が認められた製品は、いずれも海外で製造されたもの、またはアメリカなどの海外の輸入原材料を使用したものでした。クロルプロファムは、日本でじゃがいもに使用することはないことから、検出が認められるということは、原材料が輸入のものを含むという関係を表すものとも言えるでしょう。
  • ばれいしょに設定されているクロルプロファムの基準値は、日本では30 ppmとなっています(リンク)。EUでは、2023年に0.35 ppm(現在0.2 ppmへの変更が検討中のよう)に設定されているほか、発芽抑制目的での使用はできないそうです。
  • 日本では、クロルプロファムを含む製剤として農薬登録がある製品は、8製品あるようです(2025年12月10日現在)。麦・豆類や野菜の生産に使用できる製品が存在しているようですが、じゃがいもの生産に使用できるものはありません。
  • なお、アメリカ農務省(USDA)が2023年におこなった調査では、アメリカで流通しているじゃがいもを購入し、709検体について残留農薬試験をおこなったところ、サンプルの約90%からクロルプロファムが検出されたと(不検出77検体/検出あり632検体, 最大値19.0 ppm, 最小値0.005 ppm, 平均値3.2 ppm, 中央値2.4 ppm)報告しています。(リンク
  • ドンキホーテで販売されているポテトチップスのうち、スペインで製造された商品「ドンキホーテ情熱価格オリーブオイルケトルチップス」からは、ネオニコチノイド系農薬のクロチアニジンとチアメトキサムの検出が認められています。スペインはEU加盟国であり、ネオニコチノイド系農薬の使用ができないはずの国です。ポテトチップスから検出された理由は、製品の製造国がスペインというだけで、実際の原材料の生芋は、輸入のものを使用して製造をした(スペインも原材料の原産国表示義務制度は行われていない)、またはスペインの例外的農薬使用措置の枠内で生産された生芋を使用した(実際の措置実施状況は未確認)、などが想定されますが、具体的なところはメーカーさんの情報がないと判断ができません。
  • カルビーさんの「じゃがりこサラダLサイズ」から、アゾキシストロビン、チアメトキサム、クロルプロファムの3成分が検出されています。この製品は、原材料に「じゃがいも(国産)」と、原産国が確認できない「乾燥じゃがいも」が使用されています。アゾキシストロビンは、国内の生産でも黒あざ病などを防ぐために、栽培時に使用されることがある殺菌剤ですが、これとは別に、2013年、防かび剤としてポストハーベスト農薬として登録がされた成分でもあります。今回の検出が、栽培時の残留によるものか、ポストハーベストとして使用されたものかは判別はつけられません。クロルプロファムについては、日本でじゃがいもに使用されることはないことから、原産地の表示がない「乾燥じゃがいも」に由来して検出された成分であることが推測されます。
  • 農民連食品分析センターでは、今後もポテトチップス製品をはじめ、輸入じゃがいもを使用していると考えられる製品について、残留農薬調査を継続していく予定です。調査にあったっては、調査費用、機器の稼働費用が必要です。みなさんのご支援をよろしくお願い致します。

農民連食品分析センターについて

分析サポーター会員登録 農民連食品分析センターは、1996年に多くの農業者や消費者の募金により設立された背景を持つ世界的にも珍しい分析施設です。募金による設立のため、企業や行政などの影響を受けることなく、独立した立場で活動を行っています。

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