はじめに
これまでの調査で、輸入小麦を使用する小麦粉製品では、収穫直前に散布される除草剤グリホサートの影響と考えられる残留が認められることを報告してきました(報告1/報告2)。小麦の自給率が2 割に届かない日本の現状では、さまざまな小麦粉製品で、同様の傾向があると考えられます。このような結果や情報を考慮すると、子どもたちが食べる学校給食パンも、自治体によっては、輸入小麦を中心に製造されている製品であり、これまでの調査と同様に、グリホサートが残留している可能性があると考えられました。
そこで、今回、私たちは、昨年6月から、様々な方の協力を得て、学校給食パンを入手し、グリホサート残留調査を実施しました。この報告は、その第1報になります。なお、学校給食パンの具体的な提供自治体名は、提供者のプライバシーなどがあるため、今回は伏せて公開しています。
分析方法などについて
- サンプルの入手期間は、2019年6月から2020年1月にかけて、自治体の議員さんをはじめとした様々な方の協力を得て、学校給食会などから学校給食パンを入手しました。
- 入手できた学校給食パンは、合計14製品で、東北1製品(1県)、関東6製品(3県)、関西2製品(1府1県)、九州5製品(2県)でした。
- 入手できたパンのうち、小麦の原産地についての情報が入手できたものについては、結果表の原産地欄に表示しました。
- グリホサートの残留検査は、高速液体クロマトグラフ質量分析計を利用した弊センター開発のグリホサート試験法で実施しました。検査対象成分は、グリホサートおよびその代謝物AMPAとなっています。本試験によるグリホサートの定量限界は0.01ppm、AMPAは定量限界は0.05ppmです。試験系は、ガラスフリー、極力メタルフリーで行っています。
- LC/MS/MS法の条件について
高速液体クロマトグラフ質量分析計:島津製作所製LCMS -8050
分析カラム:InertSustain C18(metal free column) 3um, 2.1x150mm
データ処理:島津製作所製LCMS Solution / Insight
定性・定量:ESI/MRM
結果
表1に示すように、 学校給食パン14製品中、12製品でグリホサートの検出が認められました。検出が認められなかったのは、地場産小麦を使用しているものと、米粉を使用しているものの2製品のみでした。
表1 学校給食パンのグリホサート残留調査結果2019
No. |
商品名 |
地域 |
小麦の原産地 |
分析結果(ppm) |
1 |
コッペパン(学校給食パン) |
関東 |
外国産80%, 県産小麦20% |
グリホサート 0.05 |
2 |
はちみつパン(学校給食パン) |
関東 |
外国産80%, 県産小麦20% |
グリホサート 0.05 |
3 |
Sロール(学校給食パン) |
関東 |
埼玉県産小麦100% |
検出せず |
4 |
コッペパン(学校給食パン) |
関東 |
外国産100% |
グリホサート 0.04 |
5 |
ロールパン(学校給食パン) |
関東 |
外国産100% |
グリホサート 0.05 |
6 |
学校給食用コッペパン黒糖 |
関西 |
不明 |
グリホサート 0.07 |
7 |
学校給食パン |
九州 |
不明 |
グリホサート 0.08 |
8 |
学校給食パン |
九州 |
不明 |
グリホサート 0.08 |
9 |
学校給食パン |
九州 |
不明 |
グリホサート 0.05 |
10 |
学校給食パン(米粉パン) |
九州 |
県内産米「ヒノヒカリ」70%、県内産小麦「ミナミノカオリ」30% |
検出せず |
11 |
学校給食パン(焼きそばパン用) |
関東 |
不明 |
グリホサート 0.07 |
12 |
小学校の給食パン |
関西 |
不明 |
グリホサート 0.03 |
13 |
給食パン |
九州 |
アメリカ、カナダ |
グリホサート 0.07 |
14 |
給食パン(中学校のもの) |
東北 |
不明 |
グリホサート 0.03 |
考察と補足
- 学校給食パン14製品の検査を行ったところ、12製品からグリホサートの検出が認められました。
- パンの加工係数などを勘案すると、残留農薬基準を超過している小麦を使用して製造された製品はなかったと考えられ、食品衛生法上、問題ない食品として判断される結果となります。なお、小麦のグリホサートの残留基準値は30ppmとなっています。
- これまでの調査の傾向と同様、輸入小麦を使用している場合、学校給食パンであってもグリホサートが検出されることがわかりました。地場産小麦を使用する製品では検出が認められませんでした。これは、既報での解説にありますように、国内では、小麦へのグリホサートのプレハーベスト処理的な使用登録がないことが理由として挙げられます。
- 九州で提供されていた米粉パンからは、検出がありませんでした。自治体が公開している情報によれば、このパンは、月2回、提供されるパンで、原材料には、県内産米「ヒノヒカリ」を70%、県内産小麦「ミナミノカオリ」を30%の割合で配合して製造されているとあります。膨らみを改善させる目的で使用されていると考えられる小麦粉が県内産小麦である点も、グリホサートが検出されない理由の一つだと言えます。
- 一般に、米粉パンでは、パンの膨らみを改善させる目的で、小麦グルテンを使用する場合があります(参考サイト(PDF):農林水産省:米粉おいしくふくらませる'粉の世界'のお話)。小麦グルテンが輸入小麦由来である場合では、グリホサートが検出される可能性はあると考えられます。
- 小麦グルテンの製造には、水で練り、グルテンと澱粉を洗い分ける行程があります(参考サイト:日清製粉会員制業務用お役立ちサイト e-創・食Club:小麦グルテン資料)。この行程によって、グリホサートが減少するのかなどの挙動については情報がなく、よくわかっていません。これについては、今後、別途の確認試験と、小麦グルテン製品の市場調査が実施できればと考えています。
- 地場産小麦への切り替えや使用量を増やしていく取り組みには、生産・製造現場や供給量確保などに、いくつかの課題があることが知られており、1,2番の給食パンのように、地場産小麦とのミックスで製造をする自治体があります。今回の結果では、そうしたパンの場合、グリホサートが検出されることがわかりました。輸入小麦の使用比率がより少なくなれば、検出値は小さくなると考えられます。
- 今回の調査結果は、給食パンからのグリホサート摂取量を減らしたいと考えるなら、その原材料を、輸入小麦から国産小麦や米粉に切り替える、といった対応で達成できること示すものです(もちろん小麦粉食から米食への切り替えも)。子どもたちの食べる給食は、経済性や栄養・健康面はもちろんですが、文化や地域などを含めた、より配慮された食材の使用が期待されるものと考えます。近年、健康影響に触れるさまざまな論文や情報などが増え、話題となっているグリホサートです。日常の摂食の実態を理解し、子どもの食べる給食についての議論と、形作りの取り組みに繋げるデータとして役立てて欲しいと考えます。
- 学校給食パンの調査は、今後も継続していく予定ですが、今日、衛生管理などの観点から、学校給食パンの持ち帰りは禁止されており、調査に必要な給食パンの入手は、私たちではなかなか困難な状況にあります。この調査結果に関心を持たれたみなさんによる、自治体への調査呼びかけや、試料の提供、調査資金支援などをよろしくお願いいたします。特に、地域の議員や教育委員会などに相談をして、自分たちの地域の給食の材料を調べたりする取り組みは、学校給食を一歩前進させるのに役立つと考えられます。ぜひみなさんも取り組んでみてください。
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