ここ数年、さまざまな地域で、ワタ栽培を利用した、地域復興や活性化などの取り組みが進められています。ワタの姿が景観を美しく飾り、収穫されるワタで製品を作るといった取り組みは、自然、農業などの産業、地域が密接に関係した素晴らしい取り組みだと思います。
しかし、このような取り組みのなかで栽培されているワタ種子には、素性がはっきりとしないものがあり、中には、遺伝子組換えワタであることを知らずに栽培しているケースがあるのではないか、またその種が人づてに広がっているのではないか、といった内容の情報が、私たちの施設には寄せられていました。
2014年には、農林水産省が偶然、種子用として輸入していた中国産ワタ種子に遺伝子組換えのものが混入していることを発見し、回収の指導をする事故が起きています。 世界における主力ワタ産地の多くが、遺伝子組換えワタを栽培している背景を踏まえても、遺伝子組み換えでないワタ種子を確保するのは、種子メーカーにも課題と、大きな負担を作り出していることがうかがえる事件でした。
農林水産省:栽培用ワタ種子への遺伝子組換えワタ種子の混入について
このような背景と寄せられる情報の中で、私たちの心配は現実となってしまいます。2018年3月、「 綿には遺伝子組換えのワタがあるということを聞いた。今年の栽培用に入手したワタ種子に、万が一があってはいけないので、検査をしてもらえないか。」という相談があり、検査を実施したところ、提供された2つの種子のうち、1つが遺伝子組換えであると判定されました。
この結果を受け、わたしたちは農民運動全国連合会の機関誌「農民」にて、データを公開、注意を促すと共に、農業者への調査協力をお願いしてきました。また、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンさん主導で、農林水産省へデータ提供と質問状を提出、2018年7月3日には、農林水産省と環境省の担当者と打ち合わせをし、今後の取り組みについて情報交換をしました。なお、「行政としては、誤った栽培が発生しないよう業界団体・法人に周知徹底をお願いしている、国内での栽培状況については具体的な調査はおこなっていない」、とのことでした*。
(*遺伝子組換えと限らず「ワタの生育実態等調査」を農林水産省は行っています。ただし、前提条件を踏まえれば、遺伝子組換えのワタが自生していないかを確認している調査に相当するといえます。)
遺伝子組換えワタを、食用や飼料用また衣服などの材料として流通、消費することは認められており、問題はありませんが、栽培は、現在承認を受けている品種については、法律上できない仕組みになっています(詳細は、考察と補足をご参考下さい)。地域産業や農業、福祉などの振興目的とした素晴らしい取り組みが各地で進められるなか、この問題に気づかず栽培をしてしまい、損害や被害を受けてしまうことは、絶対にあってはならないことであると考えています。
今回のケースとその経緯を考えると、同様の例、もしくは既に栽培が行われてしまっている場所などが、他にあるのではないか、私たちは、そう考えるようになりました。
私たちは、ワタ栽培に関わる人たちに、広く周知されるべき緊急性があると考えています。さらに、被害事例が発生しないよう、国を中心とした具体的な予防対策や解決のための制度が備えられるべきと考えています。このレポートは、そのためのマイルストーンとなるデータを得る目的でおこなった実態調査の速報となります。
表1に示すように、16検体中、3検体から遺伝子組換えを検出しました。
年度 | 検査件数 | 対象の遺伝子組換え体が確認された種子・苗 | ||||
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件数 | 輸入元国・地域 | 品種名又は製品名 | 生産者 | 検出遺伝子 | ||
平成26年度※1 | 2件 | 2件 | ギリシャ(1)※2 | GOSSYPIUM HIRSUTUM AFRICA | SLARKOS S.A. COTTON GINNING | P35S,NOS-T 遺伝子 |
アメリカ(1) | Pure White | 不明 | P35S,NOS-T 遺伝子 | |||
平成27年度 | 6件 | 2件 | インド(1) |
SURABHI | Kovai kadir seeds | P35S,NOS-T 遺伝子 |
アメリカ(1) ※生産国はインド |
MRC270 | MRC Seeds Company | P35S,NOS-T 遺伝子 | |||
平成28年度 | 8件 | 5件 | インド(2) | 不明 | 不明 | P35S,NOS-T 遺伝子 |
ギリシャ(2) | 不明 | 不明 | P35S,NOS-T 遺伝子 | |||
トルコ(1) |
不明 | 不明 | P35S,NOS-T 遺伝子 | |||
平成29年度 | 3件 | 0件 | - |
- |
- |
- |
平成30年度※3 | 0件 | 0件 | - |
- |
- |
- |
合計 | 19件 | 9件 |
※1 平成26年度は、検査を開始した平成27年2月3日から平成27年3月31日までの数字。
※2 括弧内の数字はロット数。
※3 第2四半期(平成30年4月~平成30年9月)までの数字
No. | サンプル名 | 生産地・販売者など | 遺伝子組換えワタ検出試験の結果 | 品種判別試験 | 備考: 残留農薬分析結果* |
1 |
乳牛用配合飼料に入っていた綿実 |
アメリカ産 | 遺伝子組換え | 未実施 | グリホサート 2.01 ppm ジウロン 0.010 ppm |
2 |
乳牛用配合飼料に入っていた綿実 | 石巻飼料(株) | 遺伝子組換え | 未実施 | グリホサート 3.14 ppm |
* 残留農薬検査は、弊センターの残留農薬一斉分析272成分、残留農薬一斉分析131成分(高感度)および残留農薬グリホサート分析を実施した結果です。検査対象成分については、各検査コースのリストを参照下さい。
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