2023.10.18一部修正

はじめに

 ネオニコチノイド系農薬は、近年、農業や家庭用殺虫剤として広く使用される殺虫剤の系統です。浸透移行型で、低濃度でも効果が高く、残効性もあることから、省力化や効率化が求められる農業の現場では、欠かせない農薬の位置づけにあります。
 近年の研究では、使用されたネオニコチノイド系農薬が、農業用水や下水道などを経由して、環境中に排出、拡散されていくことが示されています。また、浄水場では、ネオニコチノイド系農薬を対象にした浄水処理を行っているわけではないため、飲用水からも検出されている報告があります。
 ネオニコチノイド系農薬が生態系や私たちの健康に与える影響について関心が集まっており、環境水や飲用水について、低濃度でも検出が可能な高感度検査の要望をいただくことが増えてきました。そこで、今回、新たにこのような水系試料に特化した高感度検査コースをご用意しました。この検査コースでは、環境水中(河川水、湖沼水、海水など)に存在するネオニコチノイド系農薬について、LC-MS/MS法による定量下限2 ppt水準での検査を実施します。

検査費用について

 検査費用は以下の通りです。研究・教育機関、非営利の団体などの場合は、価格の調整が可能な場合がありますので、ご相談ください。検査目的や主旨などをお伺いして特別価格での対応が可能か検討を致します。

区分 1検体あたりの価格
農民連会員(?) 14,850円(税込) *税抜き13,500円
募金協力会員(?) 22,275円(税込)*税抜き20,250円
一般価格(?) 29,700円(税込)*税抜き27,000円
研究・教育機関、非営利団体など 調査の目的や内容によって価格調整が可能な場合がありますので、ご相談ください。

 *検査費用の払込手数料はご負担ください。私たちの施設は、募金により設立されています。活動の趣旨をご理解のうえ、ご利用と応援をお願いいたします。

検査法について

■検査の対象成分にはなに?

測定雰囲気 日本農薬工業会の作用機構分類にあるネオニコチノイド系農薬7成分と、近年、ネオニコチノイド系農薬に類似した用途や特徴をもち、その代替農薬として普及が進んでいる7成分、ネオニコチノイド系農薬代謝物2成分の合計16成分を対象としています。定量下限は、2 pptとなります*。

 *トリフルメゾピリムとクロラントラニリプロールは25 ppt
 *検査試料に、汚れなどの、分析の妨害になる成分が多く含まれる試料の場合では、到達が難しいことがあります。

ネオニコチノイド系殺虫剤 定量下限 ジアミド系殺虫剤 定量下限
アセタミプリド 2 ppt クロラントラニリプロール 25 ppt
クロチアニジン 2 ppt フェニルピラゾール系殺虫剤
ジノテフラン 2 ppt エチプロール 2 ppt
イミダクロプリド 2 ppt フィプロニル 2 ppt
ニテンピラム 2 ppt フロニカミド系殺虫剤
チアクロプリド 2 ppt フロニカミド 2 ppt
チアメトキサム 2 ppt ブテノライド系殺虫剤
スルホキシイミン系殺虫剤 フルピラジフロン 2 ppt
スルホキサフロル 2 ppt ネオニコチノイド系農薬代謝物
メソイオン系殺虫剤 デスメチルアセタミプリド 2 ppt
トリフルメゾピリム 25 ppt

■試験方法について

測定雰囲気 試料について精製処理をおこなった後、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析計を用い、目的の農薬成分を検出します。同位体標識付標準品が存在する成分については、同位体標識付標準品を使用し、定性と定量を行います。(詳細をクリックで続きを表示)

  • 測定装置:島津製作所 超高速トリプル四重極型質量分析計LCMS-8050システム
  • 分離カラム:Kinetex Biphenyl(100 x 2.1mm, 2.6μm)
  • 測定モード:ESI / MRM法による
  • 定性定量:放射性同位体標識付標準品を用いた標準添加法・内部標準法
  • 定量下限:2~25 ppt(詳細は別表)
  • データ処理:LCMS SolutionおよびInsight による解析

検査・調査例

■検査例1:宮古島の地下水・水道水のネオニコチノイド系農薬調査

 2021年11月、宮古島地下水研究会さんが採取を行った地下水、環境水についてネオニコチノイド系農薬の検出試験をおこないました。10地点で採取された水試料について試験を実施したところ、全ての試料から、1成分以上のネオニコチノイド系農薬、その他の検出が認められました。(詳細をクリックで続きを表示)

No.

試料名

分析結果 (ppt)

01

咲田川湧水

イミダクロプリド
クロチアニジン
ジノテフラン
クロラントラニリプロール
フィプロニル

4.1
33.9
32.6
痕跡
3.7

02

嘉手苅湧水

イミダクロプリド
クロチアニジン
ジノテフラン
クロラントラニリプロール
フィプロニル

6.2
69.1
22.6
38.3
6.1

03

前浜の井戸

イミダクロプリド
フィプロニル

痕跡
痕跡

04

アナガー

アセタミプリド
イミダクロプリド
クロチアニジン
ジノテフラン
クロラントラニリプロール
フィプロニル

痕跡
3.2
41.5
53.0
30.0
2.1

05

北ウナトー井戸

アセタミプリド
イミダクロプリド
クロチアニジン
ジノテフラン
チアメトキサム
クロラントラニリプロール
エチプロール
フィプロニル

8.0
59.3
16.5
71.5
痕跡
痕跡
痕跡
2.6

06

山川湧水

アセタミプリド
イミダクロプリド
クロチアニジン
ジノテフラン
クロラントラニリプロール
フィプロニル

3.2
痕跡
86.2
24.4
70.3
2.9

07

水道水

アセタミプリド
クロチアニジン
ジノテフラン
クロラントラニリプロール
フィプロニル

痕跡
39.3
8.9
35.7
3.8

08

福里地下ダム

クロチアニジン
ジノテフラン
クロラントラニリプロール
フィプロニル

21.7
21.2
痕跡
2.3

09

保良ガー

アセタミプリド
イミダクロプリド
クロチアニジン
ジノテフラン
クロラントラニリプロール
フィプロニル

6.8
4.0
14.4
9.5
痕跡
2.3

10

更竹西C井戸

アセタミプリド
イミダクロプリド
クロチアニジン
ジノテフラン
クロラントラニリプロール

40.0
9.4
23.5
5.2
29.8



■検査例2:水道水中のネオニコチノイド系農薬残留検査例

 2022年3月から2023年4月まで、埼玉県富士見市に住む分析センタースタッフ宅の水道水を、概ね10日ごとに採水し、ネオニコチノイド系農薬の高感度検出試験を行いました。一年間を通して、全35試料を分析した結果のうち、4つのネオニコチノイド系農薬について抜粋したものを上記のグラフに示しました。(2023年7月7日一部修正、誤:ふじみ野市 > 富士見市(詳細をクリックで続きを表示)

 田植えや野菜などの作付時期の影響を受けているためか、5月から7月にかけて検出値が上昇していく傾向が見られます。また、8月前後から行われる水稲のカメムシ防除の影響か、9月頃にも上昇の傾向があります。一年を通して見ると、日本で最も使用量が多いネオニコチノイド系農薬であるジノテフランは通年での検出が認められることが見えてきます。

表 埼玉県富士見市の水道水中ネオニコチノイド系農薬検査結果(2022年度の一部)
採水日(単位はppt) イミダクロプリド クロチアニジン ジノテフラン チアメトキサム
2022/3/30 ND ND 痕跡 痕跡
2022/4/10 ND 痕跡 痕跡 痕跡
2022/4/20 痕跡 痕跡 痕跡 痕跡
2022/4/28 5.6 6.1 4.8 2.0
2022/5/10 3.1 3.1 3.3 痕跡
2022/5/20 4.9 5.8 5.0 痕跡
2022/5/30 7.2 5.0 4.8 痕跡
2022/6/10 27.2 21.7 10.2 6.6
2022/6/20 10.8 7.4 16.3 2.7
2022/6/30 痕跡 痕跡 6.4 痕跡
2022/7/11 ND ND 3.8 ND
2022/7/20 痕跡 2.9 7.0 2.4
2022/7/29 ND ND 5.3 ND
2022/8/9 痕跡 ND 9.2 痕跡
2022/8/19 ND ND 6.9 痕跡
2022/8/30 痕跡 痕跡 13.5 痕跡
2022/9/13 ND 痕跡 5.5 痕跡
2022/9/20 痕跡 4.4 9.0 2.9
2022/9/30 痕跡 5.0 9.1 2.3
2022/10/10 痕跡 3.7 6.8 痕跡
2022/10/20 2.4 5.8 15.6 3.2
2022/10/31 2.1 5.1 14.4 3.1
2022/11/24 痕跡 2.2 11.9 2.2
2022/11/30 痕跡 4.8 10.4 3.8
2022/12/9 痕跡 3.1 10.9 2.1
2022/12/21 痕跡 3.5 10.8 2.1
2022/12/28 痕跡 2.6 7.7 痕跡
2023/1/10 痕跡 2.0 8.2 痕跡
2023/1/23 痕跡 痕跡 7.8 2.6
2023/1/31 痕跡 痕跡 7.3 2.3
2023/2/10 ND 痕跡 6.9 痕跡
2023/2/19 痕跡 2.2 16.8 痕跡
2023/2/28 痕跡 痕跡 5.6 痕跡
2023/3/14 痕跡 痕跡 2.1 ND
2023/3/24 痕跡 痕跡 10.1 痕跡


■検査例3:ミネラルウォーター製品のネオニコチノイド系農薬検査結果2022

 2022年7月に、大手お茶メーカーが販売するミネラルウォーター1製品(採水地:フランス、硬水)についてネオニコチノイド系農薬の高感度検出試験を行いました。試験の結果、検出されるネオニコチノイド系農薬はありませんでした。

品名 採水地 分析結果
ミネラルウォーター製品
(日本お茶メーカー販売)
フランス 不検出

検査依頼Q & A

■必要なサンプル量はどのぐらいですか?

 検査には少量のサンプルで対応ができますが、原則、500mLを採取、送っていただく形になります。

■容器はどんなものを使えば良いですか?

 検査対象農薬に汚染されていないきれいなボトルを用意してください。水が漏れたりしないふたがしっかり閉まるものである必要があります。なお、ボトルをこちらでお手配することも可能です(有料)。ご希望の場合は、事前にお問い合わせください。

■採水の際、気をつけることはありますか?

 採水する水で、数回ボトルを洗浄した後に採水をしてください。水道水の場合は、塩素による対象成分の減少が起きる場合があります。水道水の検査を希望される場合は、採水時にアスコルビン酸の添加をお願いする場合があります。アスコルビン酸については、こちらからお届けをしますので、事前にご連絡ください。

■発送はどのようにしたら良いですか?

 採水後は、速やかに冷蔵便で分析センターまでお送りください。すぐに発送ができない場合は、冷蔵庫等で低温保管をしてください。こちらへの荷物の発送の際は、土、日での到着を避けたスケジュールでお願い致します。

調査・研究などで利用したい場合

 非営利の市民団体、教育機関、研究機関の場合、その目的によっては、ネオニコチノイド系農薬の検査費用の割引き試験などをおこなうことがあります。私どもの施設は、限られた資金で運営されているため、すべてのご相談ついてご対応することは難しいですが、計画している調査プロジェクトの目的や規模、予算などをお知らせ下さい。

農民連食品分析センターについて

分析サポーター会員登録 農民連食品分析センターは、1996年に多くの農業者や消費者の募金により設立された背景を持つ世界的にも珍しい分析施設です。募金による設立のため、企業や行政などの影響を受けることなく、独立した立場で活動を行っています。

 1996年の設立以来、私たちの調査活動は、募金で運営されています。正直なところ、私たちの活動に必要な財政は厳しいところにあります。消費者や農民の立場に立った活動を続けていくためにも、みなさんからの支援が欠かせません。

 分析センターを支援していただく会員「分析サポーター会員」の募集をしています。年会費一口5,000円以上で、サポーター会員になることが出来ます。私たちの活動を支えてください。よろしくお願い致します。

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