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はじめに

aflavus

 2018年5月29日、豊洲市場で大量発生したカビについて、それらがどのような菌であるか調査した結果を報告しました。この報告では、採取されたカビのほとんどは、Aspergillus fumigatusAspergillus flavusAspergillus calidoustusAspergillus nigerAspergillus nidransPenicillium sp.と分類されると考えられるものでした。今回の報告は、確認されたカビのうち、Aspergillus flavusについて追加試験を実施した結果をまとめたものです。

 Aspergillus flavusは、広く世界中に分布するカビですが、菌株によってはカビ毒「Aflatoxin(アフラトキシン)」を生成するすることが知られています。アフラトキシンは、1960年、イギリスで起きた「七面鳥X事件」がきっかけで発見されました。この事件は、カビに汚染されたピーナッツを食べた七面鳥のヒナがアフラトキシンの毒により大量死したものです。アフラトキシンによる健康害は、七面鳥だけではなく、人間でも中毒につながった事件の記録があります。

 アフラトキシンは、肝臓がんを引き起こす強い毒性を持つことがわかっています。アフラトキシンには、B1, B2, G1, G2, M1など構造の異なるものがあります。もっとも毒性が高いものがB1とされています。 日本をはじめさまざまな国で基準値や規制値がもうけられています(日本の食品における規制値は総アフラトキシンで、10ug/kg)。厚生労働省輸入食品監視業務の報告によれば、輸入されるナッツ類や穀物で、アフラトキシン汚染を受けている食品は毎年複数見つかっています。2017年の統計では、145件の違反が見つかっています。違反は中国、アメリカからの落花生での多く見つかっています。他にアーモンド、とうもろこし、ピスタチオなどでの検出が目立ちます。命令検査やモニタリング検査の対象としても定番となっている重要監視成分といえます(厚生労働省:輸入食品監視業務:平成28年度輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果)。

 なお、アフラトキシンを生成する能力を持っているA.flavusは、熱帯などの一定の緯度のゾーンに生息していると考えられています。日本では、生成株は定着・増殖できていないと考えられています。実際、日本の農産物からアフラトキシンが検出された例は、宮崎大学農学部が生産した米以外では見かけられません(もっとも調査があまりおこなわれていないだけかもしれません。沖縄や九州などには生成菌が存在するという例もあるようです)。日本の清酒製造には近縁のコウジカビA.oryzaeなどが利用されますが、これらも一時期、アフラトキシン生成を疑われたことがありました。これについては、徹底した調査研究によって、生成しないことが確認されています(このプレゼンテーション資料がとてもわかりやすいです。酒類総合研究所:日本食の原点、麴菌とその産物、日本酒 ~今さらながら麴菌は安全です~)

 今回、豊洲市場に大量発生したカビにA.flavusがありました。上述の背景と、開場前で、輸入木材程度しか、海外由来の自然物が存在していないことを踏まえれば、、アフラトキシン生成株である可能性はかなり低いと考えられます。しかし、これから開場する予定の市場で、開場までの作業を行う人、開場後働く人たちにとって危害と不安があってはいけないと私たちは考えます。そこで、市場関係者からの「このようなカビが不安な有害物質を作り出していないか不安です」という相談に応え、高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いたアフラトキシン類の検出試験をおこないました。

分析方法などについて


結果

  • 検査をおこなった12検体からは、アフラトキシンB1, B2, G1, G2は検出されませんでした。
表1 アフラトキシン類の検出試験結果
ID
 
測定結果
    B1 B2 G1 G2
1 菌株1 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
2 菌株2 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
3 菌株3 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
4 菌株4 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
5 菌株5 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
6 菌株6 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
7 菌株7 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
8 菌株11 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
9 菌株12 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
10 菌株13 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
11 菌株14 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず
12 菌株15 検出せず 検出せず 検出せず 検出せず

考察と補足

  • 今回、単離できた菌株からは、アフラトキシン類は検出されませんでした。採取された菌株は、アフラトキシン類による食品汚染や作業環境の汚染を引き起こさないと考えられます。
  • いただいた「このようなカビが不安な有害物質を作り出していないか不安です」という相談については、一定の安心が得られる結果となったと考えています。
  • とはいえ、報告1でも書きましたが、Aspergillus fumigatus, Aspergillus flavus, Aspergillus nigerはアスペルギルス症の原因菌として数えられるものでもあり、免疫に課題を持つ人にとっては、分生子を大量に吸い込むようなことは避けなければならないとされています。
  • カビの大量発生は、人の出入りが始まれば、起きにくいと考えられるものではありますが、微生物は食品の衛生管理において最も基本かつ重要であること、また都の衛生指導の中でも重点項目であることも踏まえれば、不適切な事故であった事は間違いないといえます。
  • 特に、大勢に供給される食品が集まり、それが広範囲に流通されていくハブのような仕組みである市場の仕組みを考えると、市場の汚染は、何かあったときに影響が大きくなりえるものです。営業開始前とは行っても、都はより厳密な管理を行うべき事件であったといえます。

関連リンク

豊洲市場に大量発生したカビの調査結果について-1-

築地女将さん会

Wikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/アフラトキシン

東京都中央卸売市場:豊洲市場について

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