はじめに
福島第一原発事故により放出された放射性セシウムは、広く日本の各地に拡散をしました。関東より西で今回の事故の影響を受けた大きなトピックスとして世間を驚かせたのは、静岡の茶葉から放射性セシウムが検出されたというニュースぐらいでしょうか。関東以北の生産物が、関東以西に流通され、それらから放射性セシウムが検出されるという事例への関心はあっても、汚染自体が、関西以西はあまり影響を受けていないというイメージの方が多いようです。
この調査は、京都に住む友人たちから、京都周辺を採取地とする薪をストーブなどで利用したあと、残った灰を送ってもらい、ゲルマニウム半導体検出器を用いて、それらから放射性セシウムがどの程度検出されるかを調査したものです。
試験方法について
- 2013年と2014年の2回、なるべくおなじ家庭のストーブから集められたものを試験しました。10番までが2013年の検査分、11から22番までが2014年の検査分です。
- 測定にはゲルマニウム半導体検出器（CANBERRA社製GC2020）を用い、定量はLabSOCSによる効率校正を使用しました。
- 試験日は、1は2013年2月25日、2は2013年2月26日、3は2013年5月8日、4は2013年5月22日、5は2013年6月17日、6は2013年6月27日、7は2013年6月28日、8は2013年7月1日、9は2013年7月2日、10は2013年7月3日、11は2013年7月4日、12は2013年7月5日、13は2014月2月18日、14は2014月2月19日、15は2014月2月19日、16は2014月2月21日、17は2014月2月21日、18は2014月2月24日、19は2014月2月25日、20は2014月2月24日、21は2014月2月26日、22は2014月2月27日となっています。
- No.6, 11, 16, 22は、京都以外の薪を使用した灰です。参考としてあげておきます。
結果
以下に示すように、放射性セシウムの検出が確認された。
- N.D.は検出限界以上の放射性セシウムを検出しなかったことを示します。
| No. | 品名 | 生産地 | 薪の種類 | 結果 | 検出限界 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Cs137 | Cs134 | Cs137 | Cs134 | ||||
| 1 | 木灰（薪ストーブ用） | 京都府南丹市日吉町 | 杉と檜 | 21.6 | 1.7 | 1.1 | 0.9 |
| 2 | 灰（陶芸窯の灰） | 京都府船井郡京丹波町 | 7.1 | 1.9 | 0.8 | 0.7 | |
| 3 | 薪Aの灰(家庭の薪ストーブ用) | 京都府南丹市美山町 | ｢ほとんど｣クヌギ、ナラなど | 8.5 | N.D. | 0.7 | 0.6 |
| 4 | 薪Bの灰(家庭の薪ストーブ用) | 京都府南丹市美山町 | ｢ほとんど｣クヌギ、ナラなど | 42.3 | N.D. | 0.9 | 0.8 |
| 5 | 薪Cの灰(家庭の薪ストーブ用) | 京都府南丹市美山町 | ｢ほとんど｣クヌギ、ナラなど | 17.7 | N.D. | 0.9 | 0.9 |
| 6 | 薪Dの灰(カフェの薪ストーブ用) | 木材屋の廃材、｢外国産の木材｣の可能性が高い | 混ざった廃材 | 44.3 | N.D. | 0.6 | 0.6 |
| 7 | 薪Eの灰(カフェ･宿場の薪ストーブ用) | 京都府南丹市美山町 | ｢自分で間伐した｣杉 | 108 | N.D. | 0.6 | 0.5 |
| 8 | 薪Fの灰(ストーブ･お茶会用) | 主に京都府南丹市園部の廃材、京都府篠山市の赤松 | 廃材、赤松 | 19.2 | N.D. | 0.8 | 0.7 |
| 9 | 薪G1の灰(薪ストーブ用) | 京都府南丹市八木町 | 2011年,2012年のクヌギ | 5.9 | N.D. | 0.9 | 0.7 |
| 10 | 薪G2の灰(ペレットストーブ用) | 京都府京都市右京区 | 2012年の杉･ヒノキ | 4.1 | N.D. | 1.2 | 1.1 |
| 11 | 薪Hの灰(薪ストーブ用) | 大分･日田･福岡日川郡の木材、｢製材時の端材が主｣ | 2012年に間伐されたも、の杉、ヒノキ、クヌギ | 5.3 | N.D. | 0.9 | 0.8 |
| 12 | 薪Iの灰(肥料として庭にまく灰) | 京都府南丹市日吉町 | 若い(2,3歳の)果樹(柿の木など)、栗の木 | 260 | 128 | 0.8 | 0.9 |
| 13 | 灰(A)（家庭の薪ストーブ用） | 京都府南丹市美山町、日吉町 | 美山森林組合の薪 「主に」広葉樹、クヌギ、ナラなど、 ＋「自宅、近所の庭木、古い牧柵」 | 6.2 | N.D. | 1.8 | 1.4 |
| 14 | 灰(B)（家庭の薪ストーブ用） | 京都府南丹市美山町 | 「主に」広葉樹、クヌギ、ナラなど | 48 | N.D. | 1.7 | 1.5 |
| 15 | 灰©（家庭の薪ストーブ用） | 京都府南丹市美山町 | 「主に」広葉樹、クヌギ、ナラなど 、（＋近所の杉・檜） | 30.6 | N.D. | 1.8 | 1.6 |
| 16 | 灰(D)(カフェの薪ストーブ用) | 木材屋の廃材、「外国産の木材も含まれている」可能性が高い | 混ざった廃材 | 51.7 | 2 | 1.7 | 1.4 |
| 17 | 灰(F)(ストーブ･お茶会用) | 主に京都府南丹市園部の廃材、京都府篠山市の赤松 | 廃材、赤松 | 20.9 | 3.3 | 1.3 | 1.3 |
| 18 | 灰(G)（薪ストーブ用） | 京都府南丹市八木町 | 2012-13年のクヌギ など | 3.6 | N.D. | 1.5 | 1.5 |
| 19 | 灰(G2)（ペレットストーブ用） | 京都府京都市右京区 | 2012-13年の杉・ヒノキ | 3.4 | N.D. | 1.5 | 1.2 |
| 20 | 灰(I)（薪ストーブ用） | 京都府南丹市八木町・日吉町、京都府船井郡京丹波町 | 2012-2013年に間伐されたクヌギ、ナラ、杉、檜など（＋新聞・段ボール） | 8.1 | N.D. | 1.8 | 1.4 |
| 21 | 灰(J)（いろり灰） | 京都府篠山市 | 2013年に間伐された雑木、ナラ等 | 17.3 | 3.4 | 1.5 | 1.3 |
| 22 | 灰(K)（薪ストーブ用） | 大分県国東市、豊後高田市 | ヤマザクラ (国東市, 2012)、ヒノキ (豊後高田市, 2012)，スギ(国東市, 2011)、クス(豊後高田市, 2012)、カキ(豊後高田市, 2012)、クリ (豊後高田市, 2013)、タブ (国東市)，カシ (豊後高田市)、アオキ (豊後高田市, 2012)、(+段ボール、杉の葉) | 4.6 | N.D. | 1.4 | 1.1 |
考察
- 22サンプルすべてから、放射性セシウム137が検出されています。また134は6件から検出されています。
- 放射性セシウム134と137の比率が今回の事故で放出された関係性にそぐわない検出例が認められています。これは、震災以前にあった放射性物質汚染の影響を受けていると考えられます。
No. サンプル名 Cs137/134比 2013年 2013年3月11日における理論的Cs137/137比
1.869 1 木灰（薪ストーブ用） 12.706 2 灰（陶芸窯の灰） 3.737 12 薪Iの灰(肥料として庭にまく灰) 2.031 2014年 2014年3月11日における理論的Cs137/137比 2.555 16 灰(D)(カフェの薪ストーブ用) 25.850 17 灰(F)(ストーブ･お茶会用) 6.333 21 灰(J)（いろり灰） 23.000 22 灰(K)（薪ストーブ用） 5.088 - 今回の事故で放出された放射性セシウムは、概ね2011年3月11日をスタートすると、Cs137とCs134の存在比率は、だいたい1:1程度となっているようです。この比率が、それぞれ半減期の違い（Cs134が2.0648年、Cs137が30.1671年）により、経過とともに変化していきます。純粋に福島第一原発事故の影響だけを受けた環境下では、単純計算で2013年3月11日の137/134比は、1.869となります。2014年3月11日では、2.555となります。
- リンク先に、放射性セシウムの減衰計算とCs137/Cs134比をまとめた表（Excel形式）をおいておきます（日本大学歯学部野口邦和先生の作成した表です）。
- この結果から、私たち人類は、福島第一原発事故以前から、ずいぶんとたくさん放射性セシウムによる汚染を引き起こしていたことがわかります。核実験やチェルノブイリ事故、或いははっきりと報告されていないベントなどが行われたことがあったのかもしれません。そうした放射性セシウムを吸収したり、吸着したりした樹木が生長していることが示されています。
- この数値から予想される薪の生産地における放射性セシウム汚染が、人体に与える影響量は、現在の科学的知見によれば、小さいと評価されるレベルのものと言われています。ですが、だからといって、放射性物質の放出や汚染が非管理的、無責任的に行われたり、その結果を容認することは、あってはならないことだと私たちは考えています。まして兵器を起源にする汚染などもってのほかです。
- 今回の調査の報酬は、酵母の生きたとっておきの日本酒一本でした。本当においしかったです。ごちそうさまでした。ありがとう。
調査サンプルをお送りください
- 薪ストーブを利用されている方、燃え残った灰を調査用サンプルとしてお送りください。こちらへお送りになる際の、送料はご負担ください。
- お送りになる前に、こちらにお電話かメール、FAXなどをいただけますと助かります。
- なるべく薪の産地、薪の種類、どのようなストーブの使い方をしていたかなどが履歴として記録できるものをお願いします。
- 調査支援金として1件500円以上のご支援金を、現金、図書券や切手、電子マネーなどでいただけますと調査活動が維持でき助かります。支援金の支出が難しい場合は気軽にお申し出ください。
- 測定にはゲルマニウム半導体検出器（CANBERRA社製GC2020）を用い、定量はLabSOCSによる効率校正で実施します。
- 測定データは、農民連食品分析センターで整理し、公開していきたいと考えています。お送りいただいた方の個人情報などは、公開や利用などはしません。データの重要性からどうしても必要になるような場合などには、ご連絡を差し上げます。
募金のお願い
私たちの調査活動は、募金で運営されています。支援をお願い致します。
世界では、経済性と効率化、企業のもうけのみを追求する強権的な貿易システムが推し進められようとしています。生命の営みとそのつながりを尊ばない食糧供給システムの流れに、分析と調査と人々のネットワークの力を使い、私たちは抗いたいのです。お力をお貸し下さい。
より詳しく情報を知りたいときは
まず以下までお電話をください。
農民連食品分析センター
TEL：03-5926-5131
FAX：03-3959-5660
Email power8@nouminren.ne.jp