はじめに
1996年、食品として認可された遺伝子組換え作物は、様々な製品の原材料として利用されるようになっていきました。流通が始まって、6年後の2002年には、遺伝子組み換えでない食べ物を選びたいという消費者運動が実り、日本でも遺伝子組換え作物の表示義務制度が始まりました。この表示義務制度はEU等と比べれば不十分な内容でしたが、今日、私たちは食品購入の目安として利用しています。
私たちは、まだ表示義務制度が始まる前の1999年、使用実態の把握と表示義務制度確立を目指す市民運動を後押しすることを目指して、市販されているスナック菓子製品について調査を実施しました。その結果、複数の製品から遺伝子組換えトウモロコシを検出したことなどを報告してきました。
2023年で、認可が始まって27年、表示義務制度は21年になります。今回、大東文化大学スポーツ健康科学部のインターン生3名を受け入れましたが、彼らが生まれる前に始まったこの遺伝子組換え作物について、関心を持ってもらうこと、表示制度の基礎を知ってもらうこと、PCR法による検出技術を習得してもらうことを目標に、学生さん自らが調査サンプルを選んで、原材料にトウモロコシを使用している菓子類を中心にした市場調査をおこないました。
分析方法などについて
- 2022年8月22, 25, 30日 9月8日、東京都内で販売されているとうもろこしを原材料に含む、スナック菓子やスープなどを加工食品11製品をインターン生自身が選定、購入したものについて検査を実施しました。
- 遺伝子組換えトウモロコシがもつ特定の遺伝子配列を含有するかについて定性試験を行いました。本結果は定量性を有さず組換え遺伝子の有無のみを検定した結果となります。
- 対象とした遺伝子組換えとうもろこし品種は、GA21, Bt11,E176, T25, MON810の5系統となります。以下に、5系統の親にあたる品種について記述しておきます。なお、今回の調査では、CBH351は調査対象としませんでした。
- 遺伝子組換えトウモロコシGA21
品種コード：MON-00021-9
商品名：ラウンドアップレディ(TM)トウモロコシ、Agrisur(TM)GT
開発者：モンサント社
発現形質：除草剤耐性（グリホサート/mepsps） - 遺伝子組換えトウモロコシBt11
品種コード：SYN-BT011-1
商品名：Agrisure(TM) CB/LL
開発者：シンジェンタ社
発現形質：害虫抵抗性（Btトキシン/Cry1Ab）と除草剤耐性（グルホシネート/pat） - 遺伝子組換えトウモロコシE176（Bt176やただの176とも呼ぶ）
品種コード：SYN-EV176-9
商品名：NaturGard KnockOut(TM) 、 Maximizer(TM)
開発者：シンジェンタ社
発現形質：害虫抵抗性（Btトキシン/Cry1Ab）と除草剤耐性（グルホシネート/bar）、アンピシリン耐性 - 遺伝子組換えトウモロコシT25
品種コード：ACS-ZM003-2
商品名：Liberty Link(TM) Maize
開発者：バイエルクロップサイエンス社
発現形質：除草剤耐性（グルホシネート/pat(syn)） - 遺伝子組換えトウモロコシMON810
品種コード：MON-00810-6
商品名：YieldGard(TM), MaizeGard(TM)
開発者：モンサント社
発現形質：害虫抵抗性（Btトキシン/cry1Ab）、除草剤耐性（グリホサート/CP4 EPSPS）、除草剤分解（グリホサート/GOXv247）
- 遺伝子組換えトウモロコシGA21
- 試験はPCR法により、スクリーニング試験として遺伝子組換えトウモロコシGA21系統(GA21）および残り4系統に共通する組換え遺伝子（CaMV 35S Promoter）を検出するプライマー対での増幅反応を実施し、検出の有無を確認しました。増幅反応の確認には、トウモロコシ内在性遺伝子zeinで行いました。
- プライマー対はニッポンジーン製GMトウモロコシ検査用を使用しました。
- 試験は、JAS分析試験ハンドブック遺伝子組換え食品検査・分析マニュアル 改訂第2版に基づき実施しました。選択した分析条件は以下の通りです。
- 抽出精製：Quiagen社DNeasy Maxi plant kit
- PCRサーマルサイクラー：GeneAmp PCR System 9700
- 使用Taq polymerase：Takara Ex Taq
- トウモロコシ粒を対象にした場合では、本法による検出能力は、0.05~0.1%程度の混入までの確認ができるものです（トウモロコシ1000粒中に1粒程度の混入）。スナック菓子などの加工食品においては、製品中に占めるトウモロコシ由来原材料の使用割合やその原材料の加工程度によって、検出能力は変動してしまいます。
- 試験には、センターのスタッフがサポートをしました。
結果
表1に示すように、11製品のうち1製品で組換え遺伝子を検出しました。試料から、試験にたるDNAの抽出ができた製品が8製品、できなかった製品が3製品ありました。
| ID
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サンプル名
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原材料名（数字は原材料順位）
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主原料とうもろこしの原産国 | 製造者・輸入者・販売者 |
検査結果
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|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 |   |
くらしのおかし キャラメルポップコーン 賞：22.10.20 Lot. 22.10.20 L |
1,コーン | アメリカ | 製造者：菊屋株式会社 販売者：コプロ株式会社 |
試験にたるDNAの抽出ができませんでした |
| 2 |  |
コーンフロスティ 賞：2023.08 Lot.IACD1+K |
1,コーングリッツ | インド製造又は国内製造5%未満 | 日本ケロッグ合同会社 |
試験にたるDNAの抽出ができませんでした |
| 3 |  |
ドリトス 賞：23.1.29 Lot.23.1.29/O 13:23 |
1,コーングリッツ（枠外に遺伝子組換えでない） | アメリカ | ジャパンフリトレー株式会社 |
遺伝子組換えトウモロコシを検出せず 試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシを原材料に含まないと考えられる。 |
| 4 |   |
タコスチップス プレーン 賞：2022.11 |
1,コーン | アメリカ製造 | 販売店：カルディコーヒーファーム 板橋区役所前店 製造者：株式会社ありがとう |
遺伝子組換えを検出 試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシ含むと考えられる。 |
| 5 |   |
とうもろこし茶碗むしの素 賞：23.03.28 |
1,コーンピューレー(国内製造) | 記載なし | 販売店：カルディコーヒーファーム 板橋区役所前店 製造者：一番食品株式会社本社工場 |
遺伝子組換えトウモロコシを検出せず 試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシを原材料に含まないと考えられる。 |
| 6 |   |
CRATZ焼きとうもろこし 賞：2023年5月
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7,スイートコーンパウダー | 記載なし | 販売者：江崎グリコ株式会社 製造者：グリコマニュファクチャリングジャパン(株)神戸工場 |
遺伝子組換えトウモロコシを検出せず 試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシを原材料に含まないと考えられる。 |
| 7 |   |
くらしのおかしポップコーンプレーン 賞：2023.1.25 Lot.23.1.25／T19:04 |
1,コーン（遺伝子組換えでない） | アメリカ | 製造者：ジャパンフリトレー株式会社 販売者：コプロ株式会社 |
遺伝子組換えトウモロコシを検出せず 試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシを原材料に含まないと考えられる。 |
| 8 |   |
食べ方いろいろトルティーヤチップスうす塩味 賞：23.1.21 Lot.CF C |
1,コーン（遺伝子組換えでない）（米国産） | アメリカ | 製造者：ジャパンフリトレー株式会社 加工所：関東パック株式会社 |
遺伝子組換えトウモロコシを検出せず 試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシを原材料に含まないと考えられる。 |
| 9 |   |
キャラメルコーン 賞：賞味期限 23.02.03 Lot.22JHJHM |
1,コーングリッツ(国内製造) “分別生産流通管理されたとうもろこしで作ったコーングリッツを使用しております。” | 記載なし | 株式会社東ハト |
試験にたるDNAの抽出ができませんでした |
| 10 |   |
クノールカップスープ たっぷりつぶコーンクリーム 賞： 2023.10 Lot.AK/+R |
1,スイートコーン、12, コーン加工品、13, コーンバーターパウダー、20, うきみ（スイートコーン） | アメリカ又は日本 | 味の素株式会社 | 遺伝子組換えトウモロコシを検出せず 試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシを原材料に含まないと考えられる。 |
| 11 |   |
クノールカップスープ 北海道コーンクリーム 賞：2023.8 Lot.NX/A |
1,スイートコーン、13, コーンバターパウダー | 日本 | 味の素株式会社 | 遺伝子組換えトウモロコシを検出せず 試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシを原材料に含まないと考えられる。 |
*結果は本試料についてのみ有効で、製品全ての組換え、非組換えを保証するものではありません。
考察と補足
- 技術的に未熟なところがあるインターン生がおこなった試験ではありますが、センターの専門スタッフが指導を行いながら進めた検査です。結果については、通常の試験と変わらない品質のものと言えます。
- 2番のケロッグコーンフレークでは検査がPCR試験まで到達しませんでした。糖分が多いコーンフレークは、DNA抽出の抽出がうまくいかないことが知られていますが、今回の検査でも同様の結果となりました。
- 9番のキャラメルコーンでは検査がPCR試験まで到達しませんでした。高圧をかけて製造されるおやつでは、DNAの抽出が難しいことが知られていますが、今回の検査でも同様の結果となりました。
- 食品において、遺伝子組換えトウモロコシを使用した場合は「遺伝子組換えトウモロコシを使用」、遺伝子組換えトウモロコシを分別流通していない場合は「遺伝子組換えトウモロコシ不分別」といった表記が義務づけられています。
今回の検査対象の製品に使用されているトウモロコシ由来原材料は「遺伝子組み換えでない」という任意表示がされています。これは、表示の対象になっている原材料が、農林水産省の示すマニュアルを満たす分別流通管理がなされ、かつ意図せぬ混入が5%以下である場合に可能になるものです。また、この制度では、表記がない製品の場合も、任意表示を行っていないだけで、同様の分別流通管理を行った非遺伝子組換え原材料を使用しているとして読みます。 - 今回の検査で遺伝子組換えトウモロコシが検出された製品の多くは、この任意表記をおこなっているものでした。この任意表記が正しく運用されている場合、検出された理由は、主に次のように考えられます。1,意図せぬ5%以下の混入を検出した、2,その他の原材料に遺伝子組換えトウモロコシが使用されているものがあった（ただし、今回の製品の原材料構成的には考えにくい）、などです。
- 非遺伝子組換え食品が選択できる流通を望む消費者はたくさんいます。消費者運動や農民運動との接点を持つ機会が減っている今日かと思いますが、こうした検査に関わった経験が、市民科学を支える役割になることをインターン生に伝わっていればなによりかと思います。
関連リンク
トウモロコシを使ったスナック菓子などの遺伝子組換え品種検出調査2015
「遺伝子組換え大豆不使用」表示のある大豆製品分析結果(2004/07/14)
トウモロコシを使ったスナック菓子の分析結果(1999/11/08)
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