はじめに
市販のトウモロコシを原材料に使ったスナック菓子や加工食品3点について、定性試験を行ったショートレポートを公開します。今回のレポートは、海外で製造されたとうもろこしを原材料に含む3製品について実施したものです。
一つ目の製品は、コーンスナック菓子「C콘칲(クラウン・コーンチップ(コーン味))」です。韓国土産としていただいたものです。韓国のお菓子メーカー大手CROWN社が販売するトウモロコシ粉を68%使用した製品でした。韓国語のため、遺伝子組換え原材料の使用、不使用について製品に、表記されているか確認できませんが、日本の輸入者である株式会社GREEN社さんが貼り付けた日本版原材料表記欄には、分別、不分別、などの表記がないことから、日本の非遺伝子組換え原材料使用に相当することが読み取れる製品です。なお、韓国の遺伝子組換え表示義務制度は、意図せざる混入の許容率は3%と設定されており、日本の5%より低い設定値となっています。
二つ目の製品は、有機トルティーヤチップス「LUKE'S ORGANIC Kale」です。アメリカ、Lukes Oganic社が製造販売する有機農産物認証を取得した原材料をふんだんに使用したとうもろこしスナックです。アメリカで、Non-GM食品の普及に奮闘しているNPO、Non GMO Projectさんらの認証を受けた製品です。Non GMO Projectさんらの認証を受けた製品は、ここ数年の活動の成果もあって、増えてきているようですが、2015年に私たちの市場調査で、認定を受けた今回の調査試料とは別の会社が製造していたケールチップスから、極僅かと考えられるレベルで、遺伝子組換えとうもろこしを検出したことがありました。この結果は、遺伝子組換えとうもろこしの栽培が盛んなアメリカでの分別流通の難しさを示すものと考えましたが、今回改めて、同じ認証を取得した製品では、どのような結果がでるのかについて注目し、調査をおこないました。
三つ目の製品は、有機スープの素「有機ブラック・ビーン・スープ」です。アメリカ、パタゴニア社の製品です。環境負荷の少ない食糧供給の実現をめざし、パタゴニア社が満を持して立ち上げたプロビジョン部門だけあり、原材料に、有機原材料をふんだんに利用していることが特徴です。日本のJAS有機認証も取得しているようで、JAS有機マークも印刷されています。また、枠外には非遺伝子組換え原材料を使用している旨の表記があります。原材料の2番目にある有機とうもろこしが今回の検査対象になりますが、分別、不分別表記がないことからも、日本の表示義務制度における遺伝子組換え不使用に相当するとうもろこしを使用していることが読み取れます。このとうもろこしは、製品から取り出してみると、スイートコーン系統の品種を乾燥したものであることが推測されます(粒の熟度にもよるが、形状からはデントコーン系統ではなさそう。フリント系統の可能性はあるかもしれない。)。今回の試験では、製品から、このとうもろこしのみを取り出し、試験に利用しました。
分析方法などについて
- 遺伝子組換えトウモロコシがもつ特定の遺伝子配列を含有するかについて定性試験を行いました。本結果は定量性を有さず組換え遺伝子の有無のみを検定した結果となります。
- パタゴニア社製「有機ブラック・ビーンズ・スープ」は、製品パッケージ内から、とうもろこし粒のみを取り出し、検査に使用しました。
- 対象とした遺伝子組換えとうもろこし品種は、GA21, Bt11,E176, T25, MON810の5系統となります。以下に、5系統の親にあたる品種について記述しておきます。なお、今回の調査では、研究費の都合、CBH351は調査対象としませんでした。
- 遺伝子組換えトウモロコシGA21
品種コード:MON-00021-9
商品名:ラウンドアップレディ(TM)トウモロコシ、Agrisur(TM)GT
開発者:モンサント社
発現形質:除草剤耐性(グリホサート/mepsps)
- 遺伝子組換えトウモロコシBt11
品種コード:SYN-BT011-1
商品名:Agrisure(TM) CB/LL
開発者:シンジェンタ社
発現形質:害虫抵抗性(Btトキシン/Cry1Ab)と除草剤耐性(グルホシネート/pat)
- 遺伝子組換えトウモロコシE176(Bt176やただの176とも呼ぶ)
品種コード:SYN-EV176-9
商品名:NaturGard KnockOut(TM) 、 Maximizer(TM)
開発者:シンジェンタ社
発現形質:害虫抵抗性(Btトキシン/Cry1Ab)と除草剤耐性(グルホシネート/bar)、アンピシリン耐性
- 遺伝子組換えトウモロコシT25
品種コード:ACS-ZM003-2
商品名:Liberty Link(TM) Maize
開発者:バイエルクロップサイエンス社
発現形質:除草剤耐性(グルホシネート/pat(syn))
- 遺伝子組換えトウモロコシMON810
品種コード:MON-00810-6
商品名:YieldGard(TM), MaizeGard(TM)
開発者:モンサント社
発現形質:害虫抵抗性(Btトキシン/cry1Ab)、除草剤耐性(グリホサート/CP4 EPSPS)、除草剤分解(グリホサート/GOXv247)
- 試験はPCR法により、スクリーニング試験として遺伝子組換えトウモロコシGA21系統(GA21)および残り4系統に共通する組換え遺伝子(CaMV 35S Promoter)を検出するプライマー対での増幅反応を実施し、検出の有無を確認しました。さらに、CaMV 35Sに陽性であった製品については、組換えトウモロコシBt11系統、E176系統、T25系統、MON810系統を特異的に検出するプライマー対を用いた増幅を行い、品種の特定を行いました。増幅反応の確認には、トウモロコシ内在性遺伝子zeinの増幅について行いました。
- プライマー対はニッポンジーン製GMトウモロコシ検査用を使用しました。
- 試験は、JAS分析試験ハンドブック遺伝子組換え食品検査・分析マニュアル 改訂第2版に基づき実施しました。選択した分析条件は以下の通りです。
- 抽出精製:Quiagen社DNeasy Maxi plant kit
- PCRサーマルサイクラー:GeneAmp PCR System 9700
- 使用Taq polymerase:AmpliTaq Gold 360
- トウモロコシ粒を対象にした場合では、本法による検出能力は、0.05~0.1%程度の混入までの確認ができるものです(GM品種によるがトウモロコシ1000粒中に1粒程度の混入)。スナック菓子などの加工食品においては、製品中に占めるトウモロコシ由来原材料の使用割合やその原材料の加工程度によって、検出能力は変動してしまいます。
結果
表1に示すように、3製品で組換え遺伝子を検出したものはありませんでした。
表1 スナック菓子の遺伝子組換えトウモロコシ検出試験結果
ID
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サンプル名
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原材料名(数字は原材料順位)
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原産国 |
製造者・輸入者 |
検査結果
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1 |
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C콘칲(クラウン・コーンチップ(コーン味))
賞:2016.11.12 |
1,とうもろこし粉 |
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韓国
CROWN社 |
不検出
試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシを原材料に含まないと考えられる。 |
2 |
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LUKE'S ORGANIC Kale
賞:2016.11.16 |
1,有機とうもろこし |
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Luke's Oraganic |
不検出
試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシを原材料に含まないと考えられる。 |
3 |
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有機ブラック・ビーン・スープ
賞:2017.8.3 |
2,有機とうもろこし |
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パタゴニア インターナショナ日本支社 |
不検出
試料は、本試験で確認できるレベルでの遺伝子組換えトウモロコシを原材料に含まないと考えられる。 |
*結果は本試料についてのみ有効で、製品全ての組換え、非組換えを保証するものではありません。
考察と補足
- 検査対象にした製品から、本検査法で検出できるレベルでの遺伝子組換えとうもろこしの使用は認められませんでした。いずれの製品も、分別管理が行われた非遺伝子組換え原材料を使用した製品であると考えます。
- 前回の調査では、Non-GMO Projectの認証を受けた製品から極僅かなGMコーンの反応が確認された製品がありましたが、今回、同認証を受けたLUKE'S ORGANIC Kale チップスは、検出は認められませんでした。なお、NON-GMO Projectは、意図せぬ混入は、人の食べる食品の場合、混入率0.9%を超えてはいけないという規程が設けられています。今回調査した製品については、この規程は十分に満たしたものであることが確認できました。
- アメリカで製造されたLUKE'S ORGANIC社のKale チップスもパタゴニア社の有機ブラック・ビーンズ・スープも遺伝子組換えとうもろこしに見られる組み換え配列は検出されませんでした。いずれも非遺伝子組換え原材料使用の表記があり、これらの表記は適切なものであったと言えます。なお、原材料の有機とうもろこしがどこで生産されたものかについては、記載がありませんでした。プロモーションなどから、おそらく、アメリカ産であると推測されますが、実際のところは、メーカーへの確認が必要かと思います。アメリカで有機栽培とうもろこしを分別流通できていることへの期待が膨らみます。
- トウモロコシを使ったお菓子の場合、遺伝子組換えトウモロコシを使用した場合は「遺伝子組換えトウモロコシを使用」、遺伝子組換えトウモロコシを分別流通していない場合は「遺伝子組換えトウモロコシ不分別」といった表記が義務づけられています。
今回の検査対象の製品に使用されているトウモロコシ由来原材料は「遺伝子組み換えでない」という任意表示がされています。これは、表示の対象になっている原材料が、農林水産省の示すマニュアルを満たす分別流通管理がなされ、かつ意図せぬ混入が5%以下である場合に可能になるものです。また、この制度では、表記がない製品の場合も、任意表示を行っていないだけで、同様の分別流通管理を行った非遺伝子組換え原材料を使用しているとして読みます。
- 非遺伝子組換え食品が選択できる流通を望む消費者はたくさんいます。消費者が現在の遺伝子組換え作物の使用実態と表示制度の仕組みを正しく知り、アクションを起こすことが、経済性や効率性の過度な圧力と消費者ニーズの狭間で揺れる製造会社に、非遺伝子組換え原材料の使用を続けてもらうモチベーション維持につながると私たちは考えています。
- 生産者、製造者に経済性ばかりを重視する工程と負担を押しつけ、その結果、生産コストの引き下げによる利益確保にこだわりすぎるようになり、GMへの移行が進んでいくという一面がうかがえる農業情勢があります。生産者や製造者が生産コストを保証される農産物流通の仕組みを整えることが、いずれの課題においても重要であると私たちは考えています。
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現在、遺伝子組換え作物の混入率までを検査することができる「リアルタイムPCR装置導入募金」を開始しています。世界では、経済性と効率化、企業のもうけのみを追求する強権的な貿易システムが推し進められようとしています。生命の営みとそのつながりを尊ばない食糧供給システムの流れに、分析と調査と人々のネットワークの力を使い、私たちは抗いたいのです。お力をお貸し下さい。
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