はじめに

　近年、養蜂では、家畜伝染病として大きな被害をもたらすアメリカ腐蛆病やヨーロッパ腐蛆病の予防と治療用として抗生物質や合成抗菌剤が使用されています。

　日本では、アメリカ腐蛆病の予防薬として「みつばち用アピテン（主成分:ミロサマイシン）、「タイラン水溶剤（タイロシン）」が、バロア病（ミツバチヘギイタダニ）の駆除薬として「日農アピスタン（フルバリネート）、「アピバール（アミトラズ）」が、動物用医薬品に指定されていて、適宜、使用されることがあります。また、海外では、テトラサイクリン系抗生物質なども使用されることがあります。

　安定した蜂蜜の生産を行うためには、現在、こういった薬品の使用が必要となる場面がありますが、使用にあたって、不適切な行為や残留が起きるような管理があった場合、結果として、消費者に菌交代症などの課題を持ち込む可能性があり、責任のある適正管理が必要と言えます。。

　このページは、2022年に大東文化大学スポーツ健康科学部のインターン生に実習として行ってもらった市販ハチミツの抗生物質調査結果をまとめたショートレポートになります。

分析方法などについて

• 2022年に入手できた市販のハチミツ16検体について検査を実施しました。
• 検査は、弊センターが対応する「はちみつの残留農薬・抗生物質検査コース」を実施したものです。検査対象成分は、オキシテトラサイクリン、タイロシン（タイロシンA, タイロシンB）、 ミロサマイシンの3成分としました。定量下限は、オキシテトラサイクリンとミロサマイシンは0.01mg/kg、タイロシンＡとタイロシンＢは各0.005mg/kgとなっています。
• 検出は、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析計を用いて行いました。 
  • 高速液体クロマトグラフ：島津製作所Nexera XR
  • トリプル四重極型質量分析計：LCMS-8050
  • 分析カラム：GL Science製 InertSustain C18 2μm　ガードカラム
    
• 試験には、センターのスタッフがサポートをしました。 

結果

表1に示すように、いずれの対象成分も検出は認められませんでした。

考察と補足

• 技術的に未熟なところがあるインターン生がおこなった試験ではありますが、センターの専門スタッフが指導を行いながら進めた検査です。結果については、通常の試験と変わらない品質のものと考えます。
• 今回の調査では、対象成分が検出されたものはありませんでした。一定、適切な生産と流通管理が行われている結果と考えられます。
• このような薬品が養蜂で使用されたとき、最終製品のハチミツをはじめ、ローヤルゼリー、プロポリスなどの食品に残留することがあります。日本では、農林水産省、厚生労働省の保健所、日本養蜂協会さんなどをはじめ、適正使用のための周知を行っていますが、国内産ハチミツでも検出の例があることが報告されています。
• また輸入のハチミツ関連製品では、平成29年以前は、クマホス、クロラムフェニコール、オキシテトラサイクリンなどが検疫所の検査で検出されている報告が複数見つかります。オキシテトラサイクリンは、かねより海外で広く使用されてきた歴史がありますが、日本では、使用は認可されていませんでした。しかし、かつて厚生省が実施したモニタリング検査で、国内産のハチミツからもオキシテトラサイクリンが検出され、不適切な使用が行われていることが発覚したという報告があり、こういった経験をしたことがある養蜂家さんや流通業者さんでは、現在も品質管理としてオキシテトラサイクリンを検査の対象にしているところがあります。
• 食品衛生法に定める各対象成分の残留基準値は以下の通りです。単位はppmです。
  

  	オキシテトラサイクリン	タイロシン	ミロサマイシン
  はちみつ	0.3	0.7	0.05

• 今回の調査では、ダニ落としに使用される農薬のフルバリネートとアミトラズについては試験をおこなっていません。余談ですが、農民連食品分析センターでの試験では、市販のハチミツからアミトラズが検出されるケースがあることを確認しています。ダニ落としは、冬期に行われますが、通常、養蜂家は、出荷前にこの薫蒸処理の影響を受け、残留が起こりやすい冬期の蜜は、捨て蜜として廃棄、春先からの新しい貯蜜を出荷するという操作を行っています。この捨て蜜処理が不十分な場合、高い値でアミトラズが検出される例があると考えられます。フルバリネート、アミトラズについての市場調査は、今後、実施する機会を得て、おこないたいと思います。
• 食品ではありませんが、アメリカ産のミツロウではフルバリネート、アミトラズの検出事例が多いという情報があります。

関連リンク

農民連食品分析センター：はちみつの残留農薬・抗生物質検査コース

一般社団法人日本養蜂協会:ミツバチの薬（動物用医薬品）

厚生労働省：輸入食品監視業務

農民連食品分析センターについて

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