第7話
■餅つき試食会■
眠い目をこすりながら、履き慣れたスニーカーでアパートを出る。商店街の長い上り坂はまだ暗く、モノトーンの都会色。この空間を満たすひとかたまりに冷え切った空気は、小走りのボクの袖をすいすい流れていく。いつもはつらいこの上り坂も今日は一気に上った。そう、今日はボクらが「我田青春」部待望の「餅試食会」。
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眠そうなサラリーマンを追い越し、いつもの角を曲がる。一閃。建ち並ぶビルに、幾何学的に切り取られた青空から、真っ白な太陽光が差し込む。昨日までの天気がウソのよう。思えば、今年は雨が多かった。ずぶぬれの作業を振り返る。あの汗と涙と鼻水が形を変えた。1反5畝から7俵。予想を上回る収量になった。 |
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ふけあがった餅米。待ち遠しい? | |||||
船橋はうって変わってスケールの違う青空が広がる。視界を遮るビルのないなだらかな秋色の丘陵地帯。そんな景色を真ん中に据えた船橋農民組合長、飯島行雄さん宅には、貫禄十分の杵と臼がすでにお待ちかね。飯島さんの指導で餅つきを開始。 |
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つき初めは二瓶さん。力一杯振り下ろされた杵の行き先は・・・餅ではなく臼の縁。一同大笑い。臼も餅もさぞかしびっくりしたことだろう。一臼で三升の餅をついて交代。笑っていたボクも口数が減る。流れる汗、きしむ体、赤い顔。合いの手もつらい。なれぬうえその熱さに風呂に飛び込んだような声が出る。 |
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続いて満川 | ||||||||
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粘りも腰もあって、いい餅。右、組合長の飯島さん。 |
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こうしてボクら「我田青春」部は真っ黒な土から真っ白な餅を作ることができた。お餅は柔らかく、それだけでも甘く美味しい。だけど、どんな味?と聞かれたなら、ボクは感謝の味を答えたい。優れた技術に支えられ、温かい励ましをいただき、地域の寛大な心に支えられて、今ここに餅があることを忘れてはいけないし、これが最大の調味料になっていると感じるからだ。応援してくださった方々に感謝の気持ちを込め、あらためて申し上げたい。
「来年もよろしくね」
(八田)
新聞「農民」1998/11/9
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