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はじめに

 2023年5月、東京都は、物価上昇によって影響を受けやすい低所得世帯への行政サポートとして、国産米や野菜などの食品と交換ができる「東京おこめクーポン」という事業を開始しました。制度の詳細については、東京都のページを確認ください。

 このクーポンでは、東京都が用意する複数の食品コースから、お米を中心にした食品セットを選ぶことができます。概ね、お米を含むコースでは、お米10〜15kgがセットになっているようです。

 このおこめクーポンで購入できたお米について、「美味しく食べたいと思うのだけれど放射性セシウムなどの影響はないものか気になったので調べて欲しい」、というご相談が寄せられました。そこで、試料の貸し出しをいただき、ゲルマニウム半導体検出器によるγ線スペクトロメトリー法で試験を実施しました。

 ご相談者さんによる情報によると、お手元に届いたお米には「東京都米国小売商業組合(東米商)」さんが、取り扱いをしていることになっている旨の記載があり、原料玄米欄には「複数原料米 国内産10割」、精米日は、2023年5月上旬とスタンプされているとのことでした。

 原料玄米が「複数原料米 国内産10割」とありますので、袋に詰められている精米の原材玄米は、すべて国産のお米となります。また、この記載を読み解くと、その産地については「単一産地のもの、または複数産地のものをブレンド」したものとなります。さらに、産年ついての記載が無いことから、「とある年産の単一産年米、または複数の産年のものをブレンドしたもの」でパッケージされていると考えられます。

 価格の設定や供給にあたって、いろいろと背景があり、こういった構成の製品としてパッケージされているのだと考えられますが、一方で、産地、産年が読み取れないという点では、相談者さんのように、不安なお米が含まれていないかが心配になる方もおられるようです。

 相談者さんは、特に放射性セシウムについて不安を感じているようでしたので、相談者さんのお手元に届いているお米を貸し出していただいて、ゲルマニウム半導体検出器を使用したγ線スペクトロメトリー法による測定を実施し、その結果を得ました。

 この事業で供給されたお米の総量を想定しますと、今回試験に使用したお米が、支援事業を利用された他の方のところに届いたものと同じとは限りませんが、この検査の情報は、喫食にあたって、参考になる情報に繋がるのではないかと、相談者さんと考え、ショートレポートとして公開することにしました。

試験方法


 相談者さんから、お米2kg程度を郵送いただき、これを分析試料としました。

 試料受領日は、2023年7月21日、測定実施開始日は、2023年7月21日でした。

 測定にはゲルマニウム半導体検出器(CANBERRA社製GC2020)を用い、定量はLabSOCSによる効率校正を使用しました。購入した製品を開缶し、中身を2Lマリネリ容器に充填、これを302,400秒間測定しました。検出対象とした核種は、放射性ヨウ素(I-131)、放射性セシウム(Cs-134)、放射性セシウム(Cs-137)の3核種としました。

分析結果

 本試験では、各核種のMDAは、0.04 Bq/kgとなりました(つまり0.04 Bq/kg以上の濃度でI-131, Cs-134, CS-137が含まれていれば検出できる)。結果、検出が認められた核種はありませんでした。

表1 東京おこめクーポンで供給されたお米のI-131、Cs-134, Cs-137測定結果2023-1
品名 取扱者・販売者 産年・生産地 I-131 Cs-134 Cs-137
1 東京お米クーポンで供給されたお米

精米日:2023年5月上旬
東京都米国小売商業組合(東米商) 複数原料米
国内産10割
検出せず 検出せず 検出せず

考察と補足

  • 今回の調査では、I-131、Cs-134、Cs-137の検出は認められませんでした。
  • 現在、Cs-134、Cs-137には、食品衛生法により基準値が定められています。今回の調査では、基準値以内のお米であったと判断できます。放射性ヨウ素については、福島第一原発事故直後には暫定基準がありましたが、半減期が短いことから、現在は、設定が行われていません。
  • 表2 食品中の放射性セシウムの基準値
    食品区分 基準値(Bq/kg)
    飲料水 10 Bq/kg
    牛乳 50 Bq/kg
    乳児用食品 50 Bq/kg
    一般食品 100 Bq/kg
  • 放射性セシウムを含むお米と含まないお米をブレンドして、検出されにくいパッケージを行っているのではないかというご意見がありましたが、この点については、現時点では確認は行えていません。
  • 補足試験として、米の鮮度簡易判定キットpH法による鮮度判定も実施しています。この結果では、十分に「鮮度よし」と判定できるものの、新米と比べればやや緑色の発色が弱い反応を示しました。
  • 複数原料米の場合、鮮度判定試験で、鮮度の異なるお米が確認されることがありますが、本試料では、いずれの米粒も同じ着色を示し、鮮度の異なるお米のブレンドは確認されませんでした。
  • お米の粒としては、乳白や欠け米、などはなく、粒度も揃っていることが観察されました。
  • なお、試験に使用したお米は、全量、相談者さんに返却しています。

参考資料

 図1は、ゲルマニウム半導体検出器を使用して、2011年から2014年まで、東北、関東,甲信越などで生産された米穀類試料を中心に得られた結果をまとめたものです(なお、このデータには福島産の米穀類についてのデータはふくまれていません。よりわかりやすくするため、福島の放射性物質検査室で調査した分は別データとしてまとめています)。

 2014年を最後にまとめたデータですので、2023年の現在からしますとかなり古いデータにあたりますが、東北、関東,甲信越などの地域で収穫される米穀の類に、放射性セシウムがどのように検出されるかについて考えるのに参考になるデータかと思います。

 この検査では、検出限界が、1~2Bq/kgとなるように実施されています。この条件で、2220検体を検査したデータから、検出限界以下の米穀類が、全体の70%占めていることがわかります。また99%は、10Bq/kg未満であることも見えてきます(図1)。

(svgファイルへのリンク)

 *検体数:2220検体, 平均:1.1 Bq/kg, 最頻値:検出せず, 最大値:121.5Bq/kg(36.4Bq/kg)。測定環境として、検出限界はCs-134では、平均0.9Bq/kg, 中央値0.9Bq/kg, 最小0.08Bq/kg, 最大3.7Bq/kg、Cs-137では、平均0.9Bq/kg, 中央値0.9Bq/kg, 最小0.09Bq/kg, 最大4.1Bq/kgとなっている。玄米、精米、ぬかなど米類についてゲルマニウム半導体検出器による測定結果をまとめた。産年の区分は8月から翌年9月までとした。

補足

 2023年9月15日、同様の相談があり、さらにもう一検体について、試験を実施しています。こちらは、貸し出していただけたお米の量が、0.074 kgと少なかったため、302,400秒間の測定を実施しましたが、MDAは0.5 Bq/kgほどで、今回のショートレポートほどまでは下げられませんでした。結果としては、こちらの試料でも、検査対象核種の検出は認められませんでした。

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