2023.4.11公開
先月は、日本で遺伝子組換えメダカが第一種使用規程を違反した形で飼育、流通、廃棄などがされていたという事件が発覚し、話題となったばかりですが、この事件に続いて、お隣の韓国でも未承認の遺伝子組換え生物に関連する事件が発生していました。このショートレポートは、韓国で起きた未承認の遺伝子組換えズッキーニに関連した背景や分析法についての情報を整理したものです。
2023年3月26日、韓国の食品医薬品安全処が行った発表によると、農林畜産食品部所属の国立種子院が、韓国内のズッキーニかぼちゃ種子121品種とかぼちゃ品種126品種について検査を行ったところ、2品種が未承認の遺伝子組換えズッキーニ(zucchini / 주키니)であることが判明したようです。(PDF: [부처합동] 국내산 주키니 호박 종자에서 미승인 LMO 확인, 판매 중단 및 수거.폐기 조치(韓国産ズッキーニかぼちゃ種子で確認された未承認LMOの販売中止と回収、廃棄措置について)。
また、ズッキーニ生産者484戸を対象におこなった調査では、96.5%にあたる467戸の生産者は、問題ないと確認されたようですが、17戸の生産者、つまり全体の4%程の生産者が、未承認のズッキーニを栽培していたと報告しています。
韓国政府は、直ちに種子の販売禁止と回収、またズッキーニの出荷停止を実施、消費者には、購入したズッキーニの全量を買い取って回収することを発表して、事態の収拾にあたっています。
報告書によると、この事件は、昨年、韓国内の企業Aが新規開発した種子を国立種子院に申請、その際に検査を受けたところ、遺伝子組換えであることが発覚した、ということのようです。これをきっかけに調査を進めていったところ、企業Aは、企業Bが販売していた種子を親として、品種開発をしていたことが判明します。企業Bが、販売していった種子は、企業Bが、アメリカから国際郵便で輸入、植物検疫を受けずに育種、販売したものであることが確認されていきます。企業Bが、はじめに種子が輸入したのは2015年のようで、現在まで、気がつかれることなく、8年間にもわたって栽培、流通、食品として食べられていたことになります。
この未承認の遺伝子組換えズッキーニは、CZW3系統とZW20系統のようです。病害抵抗性を持つように改変されています。ズッキーニなどのウリ科の植物に病気をもたらすウイルスの遺伝子配列、組み換えて、発現させることで、ウイルスに対する抵抗性を獲得させる仕組みです。同じタイプのものに遺伝子組換えパパイヤがあります。
ISAAAのGM Approval Database*1を調べると、ズッキーニは、Squashの分類に登録があります。
CZW3系統は、キュウリモザイクウイルス病耐性配列(cmv_cp)、ズッキーニ黄色モザイクウイルス病耐性配列(zymv_cp)、スイカモザイクウィルス病耐性配列(wmv_cp)、それからマーカー配列として定番であるネオマイシン耐性配列(nptII)の主に4つの配列が導入されていることがわかります。CZW3系統は、アメリカが1996年に栽培承認、1997年には食品と飼料として認可、カナダも、1998年に食品として承認しています。いまのところ、この2国以外での承認はまだ無いようです。
ZW20系統は、ズッキーニ黄色モザイクウイルス病耐性配列(zymv_cp)、スイカモザイクウィルス病耐性配列(wmv_cp)の2つが組み換えられています。こちらはアメリカが、1994年に栽培を、1995年には食品と飼料利用を承認しています。アメリカ以外で承認した国はないようです。
メジャーな遺伝子組換え農産物の系統は1996年から普及が始まっていますから、知名度こそ低いものの、ズッキーニは、かなりの古参であることがわかります。
2系統とも承認した国が少ないうえ、ここまで古い系統なのに栽培実態があまり聞こえてこないことを考えますと、アメリカでも、ほとんど生産・収穫は行われていないのではないかと思えてきますが、意外なことに、ISAAAのBrief 54(2018)を読むと、Seminis Vegetable Seeds社(2018年にBayerが買収済み)によって、1,000ヘクタールほど栽培されている、という記述が見つかります(アメリカ)*2。
日本政府の統計資料では、露地栽培ズッキーニの1ヘクタールあたりの生産量は12.9トンとありますから(2016年)*3、単純計算しても1万3000トンほどの遺伝子組換えズッキーニが生産されている可能性が見えてくることになります。1本200gだとして6500万本分に相当します。アメリカは、日本ほどの反収での栽培は行っていないと考えられますが、それでもかなりの量でが生産、流通していることが見えてきます。*4。
事件についてまとめた食品医薬品安全処の資料によれば、今回見つかった未承認の遺伝子組換えズッキーニは、3月中で、960トンが生産されたと推定されています。韓国のズッキーニかぼちゃの生産量は、年間約24万3千トン(2021年度)ほどとありますから、年生産量の4%に相当する量です。アメリカほどではないものの、かなりの量が韓国の市場に出た可能性があることがわかります。
これだけの量が生産されているのであれば、日本にも、未承認の遺伝子組換えズッキーニが輸入されているかもしれません。貿易統計で、品目コード0709.93(かぼちや類(ククルビタ属のもの))で調べると、2022年度は、韓国から264トンほどの輸入実績が確認できます。品目コードには、かぼちゃなども含まれていると考えられますから、264トン全てがズッキーニとは考えにくいですが、気になる輸入トン数です。
なお、韓国産のズッキーニかぼちゃは、楽天市場やYahoo!ショッピングなどでも、エホバクの名称で、販売されていることが確認できます。
輸入してきた国名 | 輸入重量 kg | 金額(円 |
---|---|---|
大韓民国 | 264280 | 44943 |
ポルトガル | 250 | 215 |
アメリカ合衆国 | 5323 | 2744 |
メキシコ | 37904920 | 4920769 |
オーストラリア | 8800 | 1556 |
ニュージーランド | 45684510 | 4433315 |
合計 | 83868083 | 9403542 |
韓国の食品医薬品安全処では、今回の未承認ズッキーニのPCR試験法が公開されています。 미승인 유전자변형 호박(CZW3, ZW20) 시험법(未承認の遺伝子組み換えズッキーニかぼちゃ(CZW3、ZW20の試験法)
Phloem Lectins(331 bp) | |
---|---|
PP2-F02 | GCTGGACATTCGTGGAAAGA |
PP2-R01 | ACATCCCTTTGCTCCAATCC |
ZQ20 & CZW-3(231 bp) | |
mgl | TATCTCCACTGACGTAAGGGATGAC |
WMVcpR003 | TGTTTCTTTTCCTGAACGAC |
CZW-3(281 bp) | |
mgl | TATCTCCACTGACGTAAGGGATGAC |
CMVcpR001 | GTTGCTGGACGGCTGCTTG |
この試験法の元になったのは、以下の論文のようです。
今後、韓国政府がどのような後片づけをするのかがとても気になるところです。カルタヘナ議定書の補足議定書に定められる「責任および救済」に基づけば、遺伝子組換えによって引き起こされた損害は、賠償や復元などをすることが求められます。
これほど長期で、大規模に未承認の遺伝子組換え作物が栽培、流通、損害を出した事例はまだありません。韓国政府が、この事件よって引き起こされた損害をどう評価し、責任を持つものに復元を求めていくのかは、今後に繋がることでもあり、議定書に準拠した対応が望まれます。
ちなみに、日本でも、栽培が承認されていない遺伝子組換えワタ品種の栽培が、誤って行われていることがわかっています*5。これまで、農民連食品分析センターでは、農林水産省と環境省に積極的対応を要請していましたが、現在も不十分なままで、認識できないまま栽培をしてしまっている方がいるようです。
2022年冬から農民連食品分析センターでは、調査を再開しましたが、既に、新たに数点の確認をしています。5月以降は、ワタの栽培が始まってきます。もし、身の回りで綿を栽培しているか違いましたら、注意するように伝えて上げてください。また、心配な方は、分析センターにお問い合わせください。
中央日報日本語版:「子どもに食べさせた自分が罪人」…未承認の遺伝子組み換えズッキーニが8年流通=韓国(1)
*1 ISAAA:GM Approval Database:Squash
*2 ISAAA:Resources:Publications:ISAAA Briefs(PDF)
*3 e-Stat政府統計:地域特産野菜生産状況調査 確報 平成28年産地域特産野菜生産状況 (ズッキーニ)
*5 農民連食品分析センター:遺伝子組換えワタが、国内で栽培されてしまっている可能性についての実態調査結果 第2報
農民連食品分析センターは、1996年に多くの農業者や消費者の募金により設立された背景を持つ世界的にも珍しい分析施設です。募金による設立のため、企業や行政などの影響を受けることなく、独立した立場で活動を行っています。
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