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はじめに

toyosutukijimap

 1972年、第一次東京都卸売市場整備計画に始まった築地市場の移転事案は、45年の迷走を経て、2017年6月20日、移転場所を豊洲にすることを決断、2018年10月11日の開場が発表されました。

 移転先の豊洲は、衛生上の不安を抱かせる土壌汚染が明らかになっています。ここは、東京ガスの貯蔵施設があった場所で、地下水調査では、水銀やベンゼンなどの化学物質が基準を超過して検出されており、クリーンであることを求められる市場の場所としては、容認は難しい現状が存在しているといえます。

 このような課題を抱え、移転にあたって様々な迷走が垣間見える豊洲新市場において、2017年9月、新しい課題が発覚し、話題となりました。築地に店舗を持つおかみさんたちのグループ「築地女将さん会」のメンバーが、移転予定の店舗スペースを訪問したところ、店舗機材などに大量のカビが発生していることを発見したというものです。

 この状況は、東京都議会やTV報道などでも取り上げられ、話題となりました。私たちの施設には、このカビの発生によって、困惑と怒りを感じているという相談が築地女将さん会から届けられました。そして、このカビの危害性について調査をして欲しいという依頼がありました。

 そこで築地女将さん会のガイドで、現地の発生状況の確認と、カビの採取、また採取できたカビの特定とその危害性などを探る調査を行いました。これは、その調査をまとめた一つ目のレポートです。

分析方法などについて

スパイス

結果

[9月11日の調査]

  • おもに木製の器具や段ボールなどを中心にカビの発生が確認でき、採取を行うことができました。
  • 女将さん会の方に、案内された木製家具は、表面が一面カビで覆われ、ふさふさとしており、目を疑う状態にありました(写真1,3および動画)。
  • 段ボールなどにもカビが生えて、ふさふさとした状態になっている場所が観察できました。
  • 棚の裏側には菌糸がのれんのように垂れ下がっている場所も観察され、場内が極めてカビの生育しやすい環境にあったことがうかがえました(写真2)。
  • ラッカーが塗布されている場所やステンレス製の機材では、カビの発生は、比較的少ないようでした。

[12月11日の調査]

  • 12月11日は発生が確認できなかったため、採取は行えませんでした。
  • 前回、確認された場所で、カビの発生は認められませんでした。木製家具は、カビが除かれる清掃作業がなされているようでした。

[培養の結果]

  • 採取されたカビの培養は、女将さん会から提出いただいた7検体、および9月11日に採取した7検体について行いました。その結果、集落の色、形態、発育速度などから、Aspergillus fumigatus, Aspergillus flavus, Aspergillus calidoustus, Aspergillus niger, Aspergillus nidrans, Penicillium sp.と同定できる菌株が観察されました(表1)。
  • 単離培養を行ったもののなかには、赤紫色の滴を形成する特徴的な菌株も観察されました。菌株の厳密な特定は難しいですが、A. Flavusの系統と考えられました(写真2)。

棚板
写真1 全面にカビの生えた棚板(拡大

Aspergillus01
写真2 菌糸がのれんのように垂れる(拡大

かど
写真3 一度清掃した場所にも発生(拡大

Rubyの菌株
写真4 赤紫色の滴を形成する菌株(拡大

表1 採取されたカビの菌株
ID
 
観察された菌株一覧
1 Aspergillus01
築地女将さん会採取
プラスチックケースに採取されたもの
Aspergillus fumigatus
Aspergillus flavus
Aspergillus calidoustusの混在
2 Aspergillus02
築地女将さん会採取
採取に使用したスプーン付着カビ
Aspergillus fumigatus
Aspergillus flavus
Aspergillus calidoustusの混在
3 aspergillus03
築地女将さん会採取
綿棒で採取されたもの
Aspergillus fumigatus
Aspergillus flavus
Aspergillus calidoustusの混在
4 aspergillus04
築地女将さん会採取
テープに発生していたカビ
Aspergillus fumigatus
Aspergillus flavus
Aspergillus nigerの混在
5 aspergillus
築地女将さん会採取
カット綿で採取されたもの
Aspergillus fumigatus
Aspergillus flavus
Aspergillus nigerの混在
6 aspergillus06
築地女将さん会採取
カビが付着した厚紙小片
Aspergillus fumigatus
Aspergillus flavus
Aspergillus nigerの混在
7 aspergillus07 Aspergillus fumigatus
Aspergillus flavus
8 aspergillus08 Aspergillus fumigatus
Aspergillus flavus
9 aspergillus09

Aspergillus fumigatus
Aspergillus flavus
Penicillium sp.

10 aspergillus10

Aspergillus flavus
Penicillium sp.

11 aspergillus11 Aspergillus niger
12

Aspergillus nidrans

考察と補足

  • 2017年8月の東京は、連続降水日数21日間という観測史上2番目とされる記録的な天候であったこと(表2)、また、女将さん会の話によれば、場内は、カビの発生が発覚するまで、エアコンによる換気も行っていなかったことが確認できており、当時の場内は湿度が高く、空気循環もなされていない環境が続いていたと推測されます。これが原因となって大量のカビの発生を招いたと考えられます。報道によれば、95%もの湿度があったと言われています。
  • 9月11日の調査では、カビ発生の指摘をうけてか、エアコンが強く稼働していました。また場内のあちこちに温湿度計が設置されており、その表示を読むと、20度前後、湿度は70%前後となっていました(写真5)。テレビなどの報道によれば、8月18日から24時間連続での空調運転を開始し、28日から業者による清掃作業が行われたということです。
  • 12月11日の調査ではカビの発生は確認できませんでした。市場は、ほとんどすべての搬入ゲートを、全開放にした換気が行われていました。また、大型扇風機が通路にあちこちの設置されており、場内に空気の動きを作っていたようでした。湿度が低くなる12月であることも、カビの発生を防止していたと考えられます(写真6)。
  • 横浜市衛生研究所のアスペルギルス症についてまとめたページによれば、観察されたカビのうち、Aspergillus fumigatus, Aspergillus flavus, Aspergillus nigerはアスペルギルス症の原因菌として数えられるものでもあり、免疫に課題を持つ人にとっては、分生子を大量に吸い込むようなことは避けなければならないとされています(写真7)。
  • このようなカビの大量発生は、人の出入りが始まれば、起きにくいと考えられるものではありますが、微生物は食品の衛生管理において最も基本かつ重要であること、また都の衛生指導の中でも重点項目であることも踏まえれば、不適切な事故であった事は間違いないといえます。
  • 特に、大勢に供給される食品が集まり、それが広範囲に流通されていくハブのような仕組みである市場の仕組みを考えると、市場の汚染は、何かあったときに影響が大きくなりえるものです。営業開始前とは行っても、都はより厳密な管理を行うべき事件であったといえます。
  • なお、この調査で採取されたカビが、Aflatoxin類を生成するかどうかについての確認を求める検査要望があり、現在、追加試験を実施しています。その結果については、別のレポートで報告していきたいと思います。
    豊洲市場に大量発生したカビの調査結果について-2-アフラトキシン生成の有無について-

表2 8月に東京都心で雨が降った日
棚板

(参考:東洋経済新報社

温湿度計
写真5 温湿度計の表示(拡大

かど
写真6 搬入ゲートが開放されていた(拡大

かど
写真7 観察された分生子の一例

関連リンク

築地女将さん会

横浜市感染症情報センター:アスペルギルス症について

Wikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/コウジカビ

東京都中央卸売市場:豊洲市場について

産経ニュース:豊洲市場にカビ 業者90店舗以上で見つかる 長雨が原因か

Youtube:ANNnewsCH:豊洲市場の96店舗でカビが発生 連日の雨が原因か(17/08/24)

日刊ゲンダイDIGITAL:土壌汚染より深刻か 豊洲市場内のグロテスクな“カビ写真”

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