トップイメージ


はじめに

収穫された有機栽培小麦

 日本は、年間530万トンほどの小麦を、アメリカ、オーストラリア、カナダ、フランスから輸入しています。このような輸入小麦について、農林水産省が実施した船積時検査の結果「米麦の残留農薬などの分析結果」によれば、2008年から今日に至るまでのデータを見ても、アメリカでは9割以上、カナダではほぼすべてと呼べる水準で、小麦からグリホサートが検出されている事が示されています(表1)。

 私たちの身の回りには、輸入された小麦を利用した製品が数多くあります。しかし、この輸入の実態に対して、普段、食べている小麦製品中に、どの程度、グリホサートが残留しているのかはよくわかっていません。検出頻度、検出濃度などを探るため、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンさんと共同調査をおこなってみました。その結果、小麦製品からもグリホサートが検出されることがわかってきました。

 このレポートは、2018年に行った市販の小麦製品について、グリホサート残留調査をおこなった一つ目のレポートになります。

表1 農林水産省による輸入小麦のグリホサート残留分析結果(2017前期・後期)


検査点数

検出があった点数

検出率(%)

基準値違反

アメリカ

139

135

97

0

オーストラリア

37

6

16

0

カナダ

75

75

100

0

フランス

15

2

13

0

*農林水産省「米麦の残留農薬などの分析結果:輸入米麦の残留農薬等の分析結果」で公開されている 平成29年度後期(PDF : 489KB) 平成29年度前期(PDF : 690KB)レポートから作成。

 

分析方法などについて

赤ワイン試験中

結果

 表1に示すように、17製品からグリホサートを検出しました。なお、「痕跡」は、定量下限値以下、検出限界以上で検出があったことを示します。わかりやすく説明をしますと、本分析法で、残留は確認できるけれども、濃度が決められるほどの濃度ではなかったという意味です。食品衛生法上は、不検出と同等と扱われます。

表2 小麦製品のグリホサート残留状況調査結果 1st
No. 画像 サンプル名 分類 小麦の原産地 製造者・販売者 グリホサート分析結果(ppm)

AMPA分析結果(ppm)

1

北海道産
全粒粉小麦
春よ恋

賞味期限:
2019.4.13

全粒粉 北海道 株式会社富澤商店B 検出せず 検出せず
2

オールブランフルーツミックス

賞味期限:
2019.09JBDAX

シリアル 記載なし 日本ケロッグ株式会社 検出せず 検出せず
3
095

スパゲッティ

賞味期限:
2021.5.22 C160L1AKB

パスタ カナダ 株式会社朝日 0.09 検出せず
4

全粒粉100%で焼けるパン用粉

賞味期限:
2019.4.13

全粒粉 カナダ主体 株式会社富澤商店B 1.05 痕跡
5

全粒粉(強力粉)

賞味期限:
2019.8.31

全粒粉 カナダ、アメリカ 株式会社パイオニア企画 0.88 痕跡
6

デュラムセモリナ粉

賞味期限:
2019.8.31

小麦粉 カナダ、アメリカ 株式会社パイオニア企画 0.03 検出せず
7

パスタ オーマイ1.7mm

賞味期限:
2021.9.4 オ 1520

パスタ 記載なし 日本製粉株式会社 0.07 検出せず
8

GABAN BlackSpaghetti

賞味期限:
2021.09.06

パスタ 記載なし 株式会社ギャバン GO 0.11 検出せず
9

マカロニ

賞味期限:
2020.7.3

マカロニ カナダ (株)コルノマカロニ 検出せず 検出せず
10

薄力粉小麦粉

賞味期限:
2019.08.27

小麦粉 記載なし 奥本製粉株式会社 0.02 未検査
11

強力小麦粉

賞味期限:
2019.03.07

小麦粉 記載なし 日本製粉株式会社 0.37 検出せず
12

昭和天ぷら粉

賞味期限:
2019.12.26

小麦粉 記載なし 昭和産業株式会社 検出せず 検出せず
13

日清全粒粉パン用

賞味期限:
2019.03.18

全粒粉 記載なし 日清フーズ株式会社 1.10 検出せず
14

日清フラワー薄力小麦粉

賞味期限:
2019.10.02

小麦粉 記載なし 日清フーズ株式会社 検出せず 検出せず
15

日進クッキングフラワー

賞味期限:
2019.9.21 AC30

小麦粉 記載なし 日清フーズ株式会社 痕跡 検出せず
16

日清カメリヤ強力小麦粉

賞味期限:
2019.04.04

小麦粉 記載なし 日清フーズ株式会社 0.09 検出せず
17

CGC薄力小麦粉

賞味期限:
2019.09.13

小麦粉 記載なし 日本製粉株式会社 痕跡 検出せず
18

ローソンセレクト薄力小麦粉

賞味期限:
2019.04.26

小麦粉 記載なし 日本製粉株式会社 痕跡 検出せず
19

日清コツのいらない天ぷら粉

賞味期限:
2019.11.7

小麦粉 記載なし 日清フーズ株式会社 痕跡 検出せず
20

セブンイレブン天ぷら粉

賞味期限:
2019.09.14

小麦粉 記載なし 日本製粉株式会社 痕跡 検出せず
21

小麦粉北海道産全粒粉 春よ恋(石臼挽き)

賞味期限:
2019.4.7

全粒粉 北海道 株式会社富澤商店A 検出せず 検出せず
22

カナダ産 強力小麦粉

賞味期限:
2019.3.13/F
/01567/VT0948

小麦粉 カナダ 昭和産業株式会社 0.17 検出せず
23

オーマイ 強力小麦粉

賞味期限:
2019.04.30/2

小麦粉 記載なし 日本製粉株式会社 0.18 検出せず
24

里山の全粒粉

全粒粉 静岡県 ポラーノ農園 検出せず 検出せず

考察と補足

ポンプ

参考資料:大豆のプレハーベスト処理の実践状況について

 日本国内では、小麦についてこのようなグリホサートの適用登録はありません。ただし、大豆については2013年に登録され、収穫前日までの使用が可能になっており、国内でもいくつかの農地で実施されていると言われています。遺伝子組換え食品いらない!キャンペーンさんらが、国内の主力大豆産地である12道県の自治体とJAさんに、グリホサートのプレハーベスト処理の実践状況について問い合わせた結果がレポートになっています。詳細に興味のある方は、問い合わせてみてください。

表5 大豆主要12産地におけるグリホサートのプレハーベスト処理、実践状況(2018)
No. 県名 グリホサートの大豆への収穫前散布 大豆生産量(t) 全体比(%)
1 北海道 把握していない 82,400 35.0
2 宮城県 把握していない 18,400 7.8
3 秋田県 把握していない 12,700 5.5
4 佐賀県 把握していない 12,400 5.3
5 福岡県 散布されている 12,100 5.1
6 滋賀県 散布されていない。必要がないから。 10,200 4.3
7 新潟県 把握していない 9,890 4.2
8 山形県 散布されていない。必要がないから。 7,830 3.3
9 青森県 把握していない 7,220 3.1
10 富山県 散布されていない。必要がないから。 6,060 2.6
11 岩手県 散布されていない。必要がないから。 6,010 2.6
12 愛知県 散布されていない。必要がないから。 5,230 2.2
出典:学習会「アメリカを変えたママがくる、ゼンさんと考える日本の食」配付資料(2018年12月14日)より。
*福岡県では、県段階で大豆収穫前に散布をおこなっていると回答。1年生雑草対策として必要という理由。ただし、県内約8,000 haのうち、ごくわずかに限る。生協などの要請もあり、以前に比べて減っている。
表6 大豆主要12道県農協のプレハーベスト処理、実施状況(2018)
県名 県名 散布状況 理由
北海道 JA中央 散布していない 必要がないから
北海道 JAおとふけ 散布していない 安全性の配慮から。必要がないから。
北海道 JAきたひびき 散布していない 安全性の配慮から。
北海道 JA帯広かわにし 把握していない 安全性の配慮から。
宮城県 JA宮城県本部 散布していない 必要がないから。収穫時期が遅いから自然に枯れる。
秋田県 JA秋田県本部 散布していない 安全性の配慮から。必要がないから。
佐賀県 佐賀県農協中央会 散布していない 大豆の栽培主要県なので、安全安心の配慮から。時期的にに枯れるように栽培しているから必要がない。
福岡県 JA福岡県本部 散布されている可能性がある 農薬取締法で許可されているから。
新潟県 JA新潟県本部 正確に把握できない 農協などの指導は県が担当している。
青森県 JA青森県本部 把握していない 各単協の出荷先の考えにより使用することもある。
出典:学習会「アメリカを変えたママがくる、ゼンさんと考える日本の食」配付資料(2018年12月14日)より。

修正履歴:

2019年3月10日 No,1の「北海道産全粒粉小麦春よ恋(富澤商店B)賞味期限:2019.4.13」のグリホサート分析結果が、入力ミスで「痕跡」になっていました。これを「検出せず」に修正しました。

2019年8月19日 マカロニについては、後日、生産に関する追加情報の提供があったため追記を行いました。

2020年4月20日 有効数字が揃っていない部分がありましたので、修正しました。(昭和産業カナダ産強力小麦粉0.168を1.7に、オーマイ強力小麦粉0.179を0.18に)

関連リンク

厚生労働省:農薬評価グリホサート(PDF)

モンサント社:グリホサートの有益性と安全性(PDF)

モンサント社:グリホサートを含有する除草剤には40年にわたって安全に使用されてきた歴史があります

農林水産省「米麦の残留農薬などの分析結果:輸入米麦の残留農薬等の分析結果」

日産化学株式会社:作物別の効果的な防除~大豆収穫前~|除草剤ならラウンドアップマックスロード

飼料中の有害物質の基準値 - 独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)

UNIVERSITY of WASHINGTON:NEWS RELEASES:UW study: Exposure to chemical in Roundup increases risk for cancer

Mutation Research/Reviews in Mutation Research:Exposure to Glyphosate-Based Herbicides and Risk for Non-Hodgkin Lymphoma: A Meta-Analysis and Supporting Evidence

Charles M. Benbrook, "Trends in glyphosate herbicide use in the United States and globally", Environmental Sciences Europe (2016, 28:28) DOI: 10.1186/s12302-016-0070-0.

Moechnig M, Deneke D (2009) "Harvest aid weed control in small grain. South Dakota State Univ"

有機農業ニュースクリップ:グリホサート関連年表

印鑰 智哉のブログ:今後のグリホサートの年齢別作物別被ばく推定量

livedoor NEWS:女性自身:大手3社の小麦粉メーカー、「発がん性」除草剤成分検出に返答

日産化学株式会社:女性自身:女性自身 1 月 29 日号の企業名スクープ公開! 『大手 3 社の小麦粉から「発がん性」除草剤成分が検出された!』の記事について(PDF)

日産化学株式会社:週刊誌の記事について

募金と調査協力のお願い

LC/MS/MS  今後、市販の小麦製品のほか、学校給食パンの調査などを進めていく計画です。調査には、調査資金とサンプル収集に支援が必要です。みなさんからの研究募金などの支援をお願いいたします

 1996年の設立以来、私たちの調査活動は、募金で運営されています。消費者や農民の立場に立った活動を続けていくためにも、みなさんからの支援が欠かせません。

分析装置導入募金のページへ

 どうぞよろしくお願いいたします。

尿や母乳、髪の毛などのグリホサート残留検査について

 尿や母乳、髪の毛などにグリホサートが含まれているかについて検査を希望される問い合わせが増えてきています。ご希望に対応できるよう、まず、髪の毛の検査について、急ピッチで検査態勢の整備を進めています。

 髪の毛を粉砕できる粉砕装置が高価なため、私どもの研究予算では購入できず、緊急でボールミルを手作りし、2019年2月1日現在、どうにか髪の毛のグリホサートの検査に対応できるようになりました。いまのところ、精度テストなどを含めた、テスト試験を重ねている段階で、一般の方からの検査は、特別な場合を除き、お引き受けはしていませんが、4月末までには、Detox Project Japanさんなどを窓口に、広く受け入れ対応できるように準備を整えています。

 検査は、グリホサート検査(グリホサート、AMPA、グルホシネート)のほかに、残留農薬131成分検査(近日中に327成分に強化予定)、残留農薬272成分検査に対応します。検査手法は、LC/MS/MSを利用した方法で、尿や母乳の場合、定量下限値を0.05ppm(50ppb, 50ug/L)程度での感度を想定して進めています。髪の毛については、提供いただく髪の毛の重量が少ない場合、定量下限値が大きくなると想定されています。おおむね0.05~0.1ppm(50~100ppb, 50~100ug/L)程度となりそうです。ただし、この定量下限値などは、現在検証中のもので、今後の作業によっては、変更されることもありますのでご了承ください。

 なお、Moms Across Americaと互換のある試験法の採用を検討しています。これまでのデータの蓄積が共有できることになると考えており、現在、Zen Honeycuttさんと連絡を取りながらMoms Across Americaで試験を担当してきた研究者の方たちからの技術的な情報提供もお願いしているところです。

 検査受付開始まで、今しばらくお待ちください。なお、立ち上げにあたって、皆様からの募金をお願いしています。お力をお貸し下さい。

より詳しく情報を知りたいときは

 まず以下までお電話をください。

農民連食品分析センター
TEL:03-5926-5131
FAX:03-3959-5660
Email power8@nouminren.ne.jp